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銀土シリアス小話。


「どこか、とおくにいきたい」

すぐ隣で零された土方の呟きに、俺は奴の肩に回していた腕を思わずぴくりと震わせた。一月振りに会うコイツの肩は少し痩せていて、それが一ヶ月間の激務を物語っていた。

「…どこかに?」
「どこか。どこでもいい」

土方は弱っている。そう確信せざるを得なかった。コイツは毎日、誇りの象徴である隊服を身に纏い、肩で風を切って街を堂々と歩く、立派な男なのだ。それが、どこかに行きたいだなんて。現実から目を逸らしたいだなんて。

「どこでも、構わねェんだ。遠けりゃどこでも。ずっと遠くに行っちまいてェ」

コトンと俺の肩に乗った土方の頭。強い意志を絶えず浮かべ続けるあの黒い瞳は、瞼の裏側に潜んでしまっていた。
コイツに何かあったのか、それとも近藤に何かあったのか。コイツを根っこから揺るがすことが、何かあったに違いなかった。じゃなけりゃ、コイツがここまで参るはずがねェからだ。
俺は、冷え切った土方の体を深く抱き寄せた。凍えきった土方の頬を胸に押し当てて、俺の心臓の音を聞かせようと思った。
じゃねーと、コイツが壊れちまいそうな気がしたから。
土方は、疲れ果てたような瞳を覗かせて、俺を見上げた。俺は何故だか、泣きそうになった。

「…そんじゃ、どこに行きてェか考えてみて」
「どこに?」
「脳内旅行。ほら、目ェ閉じて」

土方は脳内旅行という単語に首を傾げつつも、再び目を閉じる。土方の右耳は俺の左胸に置いてあるため、俺は少し首を伸ばして土方の左耳に出来る限り唇を寄せた。

「土方、どこに行きたい?」
「…宇宙、見てーな」
「ではまずは宇宙船へどうぞ。ご案内します」
「お前誰だよ」

丁寧語になった俺に、土方は吹き出した。俺も口元だけで笑いながら、強く土方を抱きしめた。

「土方十四郎様、ファーストクラスのチケットを1枚でよろしいですか?」
「2枚な」
「2枚?」
「お前の分も」

俺は心中、大きく驚いた。土方は、身も心も疲れ果てて、それを癒す旅に、なんと俺を連れてってくれるらしい。
重くて苦しいモノを全て捨てて出た旅に、俺だけ連れてってくれるなんて、そんな、嬉しすぎる。

「…お客様、俺はただのチケット売りです。あとの1枚は、誰のチケットですか?」
「お前が何ごっこをやってんのか知らねーけど、あとの1枚は坂田銀時のだ。ちゃんと席とっとけよ」
「…了解しました。どうぞご搭乗下さいませ」

俺も目を閉じた。土方と二人で宇宙旅行に旅立つのだ。
俺の脳内の宇宙船は、俺と土方以外は誰も乗ってなかった。静かな船。でもいいだろ、少なくともハイジャックの危険はない。

「土方、窓側がいい?通路側がいい?」
「今は銀時なのかよ。さっきまでの敬語は何だったんだ」
「もういいの。船には俺とお前と二人だけだから」
「無人船か?どっかに不時着どころか出発も出来ねーぞ」
「出来るんだよ。土方が望んだときに出発して、土方が望んだときに帰ってくる」
「…窓側がいい」

窓側に土方が座った。ラフな着流し一枚で。荷物も刀も持たずに、身軽な格好で。俺も木刀すら持ってなかった。
シートベルトの必要はない。体を縛りつけるものなんて必要ない。
宇宙船は出航した。目にも留まらぬスピードで空港からスペースワールドにワープして、辺り一面は暗くなった。

「土方、星が見える?宇宙っつっても、間近で見りゃただの闇だろ」
「そうだ、な。でも地球は綺麗だ」

土方の声が、ぼんやりしてきた。体温が熱い。心なしか、土方が俺に体を預けている気がする。

「…な、土方」
「…あ?」
「お前が望む場所まで、まだ時間かかるみてェだ」
「そう、か。…とおいところって、言った、から…な…」
「だから、着いたら起こしてやるから。寝てていいよ」

まるで耳元で囁く俺の催眠術に嵌まったみたいに、土方の全身が弛緩した。ずっと目を閉じていたから、つられて寝ちまったらしい。
俺の隣の席で、椅子にもたれて眠る土方の横顔は、ちょうど通過したデカイ星に照らされた。

「土方」

俺はやっぱり泣きたくなった。土方を守れない自分が、とてつもなく無力だと感じた。好きなのに、好きってだけじゃ、土方をこの世の全てから守りきれない。涙が頬を伝い落ちた。
こんな、こんな、馬鹿みたいな方法で寝かせることしか出来ないなんて。好きなのに。腕っ節に自信があっても、少しくらい頭の回転が早くても、口がどれだけ上手く回っても意味がない。土方を守れない自分の長所なんて、いくつあっても意味がないのに。

「…ごめん、な」

そっと目を開ける。俺の体に頭を預けて昏々と眠る土方の表情が安らかなもので、安心した。宇宙に旅立つ夢が見れてるといい。きっとお前は目覚めたら、刀を腰に佩いて颯爽と万事屋を出て行くんだろう。
壊れそうになったら、またおいで。そのとき俺は、お前を導く案内人になってやるから。
さて、俺も眠ろう。土方をしっかり抱きこんで、俺はまた頭に宇宙船を思い描いた。
目を閉じたとき、涙がひとつぶ土方の頬に落ちた。

さあ、お前と二人で夢という名の宇宙旅行へ。
行き先は、ずっととおく。たどり着くのは、ずっとあと。



スイマセン。現実逃避したいのは私です。どっか遠くに行きたいなー。
な、なんだかメルヘンになってしまった…!
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