忍者ブログ

02

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
□    [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

◆将軍×見習い兵士

お相手→ナーサティヤ









未だ日中というのに黒き太陽のために薄暗い根宮。その回廊を颯爽と歩く白い背中に、私は駆け寄った。
静かな怒りを抱いて。

「ナーサティヤ様!」
「………」

ナーサティヤ様はぴたりと足を止め、首だけで振り返る。無表情なお顔。冷たい瞳が、わたしを貫いた。
その視線に自然と身が竦む。けど、ここで退いてはダメだ。わたしはギュッと拳を握ってナーサティヤ様をまっすぐ見上げた。

「っあの、七日後に出陣する軍の陣容を拝見しました」
「…そうか」
「なぜナーサティヤ様直轄の第一軍に、わたしの名がないのでしょうか!?」

ナーサティヤ様の軍はいくつもの中隊に分かれていて、わたしは光栄にもナーサティヤ様直々に指揮する第一軍の副官を常に務めていた。
そして七日後は、貧困に喘ぐ民の起こした叛乱を鎮めるための出陣。特にいつもの陣容を変更しなくちゃならない理由なんてないはずなのに…。

「わたしが何か大きな失態を?それとも他に何か特別な理由が?」
「私の決断に間違いがあると言いたいのか?」
「ナーサティヤ様がなぜ私を第一軍から第五軍に配置替えしたのか、その理由が気になるだけです!」
「副官から第五軍隊長へ昇格したのだ。何が気に食わぬ?」

ナーサティヤ様は眉一つ動かさずに答える。わたしの大声が広々とした回廊に響いて、行き交う文官達も何事かとこちらを見ているのに、その視線も気にされていないようだ。
きっとわたしがここで喚いても、ナーサティヤ様からすれば羽虫が傍で飛んでいる程度の認識しかないんだろう。わたしなんて、ナーサティヤ様から見ればとても些末な存在に過ぎないんだ…。

ずっとナーサティヤ様に憧れて、殿方に混じって鍛錬を続けてきた。
ナーサティヤ様の傍に居たくて、お力になりたくて学問にも力を入れた。
副官に任じられた時は天にも昇る喜びで、戦場がいくら恐ろしくとも、ナーサティヤ様が居たからこそ乗り越えられたのに。
ナーサティヤ様には、そんなわたしなどいなくても構わない。わたしではない者が副官だろうと、全く問題なくて。

悔しくて、悲しくて。わたしは声を更に荒げた。

「第五軍隊長よりも、わたしにとってはあなたの副官で居られることが何より名誉なことです!!隊長になるために戦ってきたんじゃない!」
「………」
「ナーサティヤ様のために頑張ってきたんです!ナーサティヤ様のためならわたしは――ッ!?」

感情が高ぶるのを止められず、怒りや悔しさに任せて叫んでいたわたしの唇に当てられた、…ナーサティヤ様の細い人差し指。
驚いて、はしたなく口をぽかんと開き言葉をなくしたわたしに、ナーサティヤ様はやや困惑気味に眉を顰めた。

「…騒がしい女だ」
「も、申し訳、ございません…」
「お前が傍に居ると指揮や戦闘に集中出来ぬ。だからお前を離れた第五軍に配置したのだ」

やれやれと何やら諦めたようにナーサティヤ様は首を振って、わたしから手を離す。触れられた唇がまだ熱い…きっと頬も真っ赤になってしまってる。
文官達の好奇な視線から逃れるべく、ナーサティヤ様によって、わたしは高い天井を支える太い円柱の影に押しやられた。ナーサティヤ様の腕が顔のすぐ傍に立てられる。
前に立つナーサティヤ様があまりに近くて、恥ずかしさのあまり引こうとするも背中はぴったり柱にくっついている。
ドギマギなわたしなんて無視で、ナーサティヤ様は端正な瞳をわたしに向けた。
妙な威圧感に息を呑んで、でもさっきの言葉には黙ってられない!

「わたしが足を引っ張っていたということですか!」
「違うな。私がお前を恋しく思い、それ故に戦闘中、私情を挟んでしまうという事だ」
「…………はい!?」

声音も平坦、表情に色はなく、でも告げられた台詞はどう聞いたって愛の告白だ。
耳を疑うしかなく素っ頓狂な声で聞き返すと、ナーサティヤ様はやっぱり何でもないという様子で。

「だから、お前が命を落とさぬか、怪我を負わぬかと心配に駆られて戦闘に集中出来んと言っている」
「……えっと…ナーサティヤ様…?」
「だがお前の力量は買っている。俺が居なくとも確実な指揮を下せると信頼し、第五軍を任せようと考えたが…嫌か」

嫌、なのかどうかなんて、今のわたしに判断出来ると思っているのだろうか。あまりに嬉しくて、感激に泣きそうなのを頑張って堪えてるわたしに。
そんなわたしの必死さに気付いたのか、ナーサティヤ様はふっと目元を緩めた。わたしには、笑ったように見えた。

「…泣くな。対応に窮する」
「は、はい…っ」
「…だが確かに、近くにお前の姿が見える方が良いかも知れん。離れていてはお前の危機を救うどころか、気付く事も出来まい」
「わ、わたしも!ナーサティヤ様のお側で共に戦いたいです!あなたをお守りするために、わたしがいるんですから!」
「……三度は言わんぞ。騒がしいと」

ナーサティヤ様が、今度こそ微笑みと分かる表情になった。注意も刺々しいものじゃなくて。
人差し指ではなく、ナーサティヤ様の口付けで唇を塞がれながら、わたしは素直に瞼を閉じた。









fin.



ネタ自体はすぐできたのに誰で書くかで悩みました。結果、前から書いてみたかったサティで!サティ難しかった…!

今作のヒロインは熱血!楽しかった!まあ…見習い兵士設定はどっかいっちゃいましたが(笑)
PR
◆執事×令嬢

お相手→島左近








授業が終わり、担任の挨拶も終えて、放課後へと突入したばかりの教室。
いわゆるセレブな家庭のご令息、ご令嬢ばかりが通うこの学校だから、教室内のあちこちで廊下に待機している自分の執事を呼ぶ声が聞こえる。
かくいう私も、クラブには所属していないからもう屋敷に帰宅するだけだ。廊下に面した窓の向こう側には、私を見つめて呼ばれるのを待っている私の執事がいる。

「左近、来て。帰ります」

声を張って呼びかけると、待ってましたとばかりに左近さんが微笑んだ。本当は左近さんと声に出して呼びたいけど、執事をさん付けだなんて聞いたことがないから。
教科書のずっしり詰まった重い鞄を机に置いて、椅子を仕舞った時に左近さんが隣に歩み寄ってきた。
屋敷では緩めている襟元も、他人の目がある校内だからきっちりタイが結ばれていて、体格のいい左近さんはちょっと苦しそう。お父様に言って左近さんの服を新調してもらわなきゃ。
左近さんは私を見下ろすと、芯から穏やかな瞳を私に向けた。顔は強面なのに、いつも、なんて優しい目をする人なんだろう。

「今日も一日、お疲れ様でした。お嬢様」
「左近にお嬢様なんて呼ばれると、くすぐったいわ」
「そういうあなたこそ左近、なんて呼び捨てにして。俺の方こそ慣れませんよ、お嬢さん」
「それもそうですね、左近さん」

執事と主人、以上の絆を持つ私と左近さん。クラスメートにも屋敷のメイドたちにも、お父様にだって秘密な関係。
いつか私はどこかのご令息のもとへ嫁ぐのかも知れない。でも、だからって左近さんへの想いを捨てるなんて今は不可能で。
そんな私のワガママを、左近さんは受け止めてくれたから。

「さ、帰りましょ。ここじゃ優秀な執事を演じなけりゃならないんで、面倒なんですよ」
「ええ、早く帰って左近の淹れるミルクティが飲みたいわ」
「あなたが望むなら、何杯でも」

こんな他愛ない、毎日交わしている会話ですら、左近さんとだと特別な響きを持つ気がする。
きっと浮かれている私の表情に、左近さんは呆れたように、でもやっぱり慈愛に満ちた瞳で私を見つめた。










「失礼、」
「あら」

校門前にさしかかった時、声をかけられて振り向くと伊達家のご令息、政宗さんが立っていた。
伊達家とはそれなりに親交のある間柄で、私は笑顔をもって彼と向き合う。

「何かご用でしょうか?」
「来週、わしの屋敷でガーデンパーティーを行う。招待状だ!わし直々に持って来てやったぞ!」

政宗さんが何故か頬を染めて私に封筒を突き出した。彼の背後に控える執事の孫市さんが、青春たねえ、なんてしみじみと呟いている。
私は薄い水色のきれいな封筒を受け取り、頭をやや下げて会釈を返した。

「お誘い、光栄に存じます。必ず伺わせて頂きますね」
「真か!孫市、来てくれるようじゃ!」
「聞いてたって。良かったな、政宗」
「約束の証に小指を出せ!」

無駄にはしゃぐ政宗さんに請われ、私はテンションについていけてないながらも右手を出した。
小指に政宗さんの小指が絡まり、ギュッと結ばれる。
なんだ、指切りげんまんか。そう思った時、私の小指が引かれ、政宗さんの柔らかな唇が指に触れた。

「ま、政宗さん!?」
「や、約束じゃ!他意はないぞ!」

約束の印に小指にキスなんてマナー、習ってないのに!
政宗さんは顔を真っ赤にしながらも足早に去ってしまった。で、去り際、孫市さんのウィンクもしっかり頂戴してしまった。

「な、なんだったんでしょう…」

風のように去ってしまった政宗さんに唖然としていた私は、唐突に腕を引かれてついよろめく。
腕を引いたのは左近さんで、執事が主人の前を歩くというマナー違反を犯しつつ、大股に校門をくぐり抜けた。

「さ、左近?離しなさい、皆が見ているわ」
「聞けませんな」
「ダメよ。執事にあるまじき行為だって、あなたが咎められちゃう」
「構いませんよ」
「っ、左近さん!」

聞く耳持たない左近さんに、私はつい主人の仮面を取って名前を呼ぶ。それでも左近さんの足は止まらず、腕を掴む力は一層強まった。










そのまま校門前に待機していた家の車に乗り、帰宅するとまっすぐ私の自室に入る。
いつもなら私の着替えを済ませて、左近さんがあったかいミルクティを淹れてくれて、しばらく勉強タイムに入るんだけど…。
左近さんは部屋に入ると私をソファに座らせ、自分はその前に片膝をついた。

「小指を」
「え?」

言われた言葉があまりに突然だったから反射的に訊き返すと、左近さんは苛立たしげに眉を寄せて私の手を取った。
そして、なんと、私の小指を口内に入れたのだ!

「さッ、左近さん!?」

私が慌てて手を引こうとするも、手首をがっちり掴まれてて抜けない。
その間にも熱い舌が指先から股、関節をひとつひとつ確かめるように弄る。
時折、やんわりと甘く噛まれて、私は恥ずかしさに気絶しそうだ。
また、左近さんの表情があまりに真剣で、どことなく野性的だから。
私は何も言えず、ただ左近さんの行為が済むのを待った。




やがて、濡れた音を立てて左近さんの唇が指から離れて。
低く掠れた声が、私の鼓膜を震わせた。

「……ヤキモチ、妬き易いんですよ」
「だ、だからって舐めなくても」
「だって、愛してるんで。嫌でした?」
「嫌なわけ、ないけど…」

ストレートな愛の言葉に、息が止まりそうなくらいトキメいた。
左近さんは余裕のある笑みを浮かべて、私の頬に唇を落として。

「可愛いですよ、左近だけのお嬢様」










fin.


今回のバトンの試練の中で一番ノリノリで書きました!!左近!わたしの旦那!!
最近とあるアプリの影響で執事熱がアツいです。左近で書けてよかった!

今作のヒロインはちょっと幼く可愛くを目指して書きました。
◆殺し屋×標的

お相手→服部半蔵


※痛々しい表現、そして死ネタです。御注意を!









半蔵、約束だよ。




……応。




私がもし、しくじって捕まったら、




………。




早めに、絶ちに来てね。










堅牢として知られる小田原城。その地下牢に、半蔵は闇を纏い忍び込んだ。
足音は見張り兵の呼吸より密やかに、次々と障害を排して目当ての牢へと近付く。
既にこの世を離れた見張り兵より盗んだ鍵で、半蔵は音も無く牢の中に滑り込む。

「………」

瞬間、目の前の惨状に半蔵は瞼を伏せかけて、すぐに思い留まる。任務中の忍が視界を狭める訳にはいかない。
だが、それでも直視は出来ず、半蔵は目を背けながらも牢の奥へと足を進めた。

「……や、っと…来た…おそい、よ…」

必死に掠れた声を出すのは同郷の忍。主を同じくし、主の為にこれまで二人、身を粉にして働いて来た。
半蔵を誰よりも理解し、支えてくれた、いわば相棒。

その彼女の身は、今や衣服一枚纏わず、左腕一本で天井から鎖で吊り下げられている。
右腕は、肘から下がなくなっている。申し訳程度の止血はされている様だが、鼻につく腐臭は切断面からのものかも知れない。
両足の爪は一枚残らず剥がされていて、切り傷や打撲の痕で白い脚は飾られていた。
腹部には一際大きな風穴。急所を外れて――外されている為に、事切れることなく生きているが、どうやら刺し傷のようだ。

半蔵は、七日前に笑顔で任務に出て行ったこの相棒を思い返し、堪え切れようのない苛立ちに胸を焦がした。

「は、はは…。捕まっ、て、やられちゃった…」
「言葉、無用…。傷が」
「でも…なにも、漏らし、てな、いわ…。身元、すら…も…」
「言葉、無用」

二度目のそれは多少語気を強めて言った。
むざむざと敵方に捕まった相棒に、相棒に酷い拷問を施した敵に、そしてこの任務に就く際に同行しなかった己に、止め処なく怒りが沸き起こる。
そんな半蔵の怒りなど気にせず、彼女は至極嬉しそうに笑った。

「やっと…ね…。待ち、わびた、の…、あなたを…」




半蔵、約束だよ。
私がもし、しくじって捕まったら、早めに、絶ちに来てね。




任務に出る時、彼女が残した言葉に従い、半蔵は夜陰に乗じてこの場にやって来た。
任務を失敗した忍に、主に合わせる顔なんてない。
そして捕まった後、激しい拷問の末に、何か主に関する情報を洩らしかねない。
そんな理由から、彼女は半蔵に約束を取り付けたのだ。

半蔵は、鎖鎌を構えた。
この鎌を、目の前の変わり果てた相棒に振り下ろせば、約束は果たされる。彼女の命が、あらゆる痛みや苦しみから解放され、絶たれるのだ。

「半、蔵」
「………」

急かすように名前を呼ばれた。だが半蔵は動けない。
こんな体になっては、もう彼女は忍としては生きていけない。忍という役割に誉れを抱いていた彼女にすれば、生きる希望も無い筈だ。
何よりも彼女の望みが、死ぬ事なのだ。
彼女の、愛しい者の願いならば、叶えなければ。

「………愛、故に」

半蔵の小さな小さな呟きに、彼女は心から幸せそうに笑んで、頷いて、鮮やかに散った。
鎖鎌の切っ先が寸分違わず、彼女の首筋に突き刺さったからだ。
一瞬で旅立せてやりたかった。

「……影に怨念、無用なれど」

感情は要らない。主の為に滅私奉公。それが半蔵と彼女の生き方だ。
だが、それでも。いつか。

半蔵はゆっくりと鎖鎌を引き抜き、彼女の亡骸をそのままに牢を後にする。荷を連れて抜け出せる程、この小田原城の警備は甘くないのだ。
絶対に、いつかこの小田原城に巣くう闇の権化を、愛しい者の仇を、この手で切り裂く。
半蔵は表情におくびも出さず、静かに誓った。










fin.




グロ表現すみませんでした…!しかもついにやっちゃった死ネタ…。あああなんてことだ!
あ、ヒロインを捕まえたのは風魔です。

今作のヒロインは特に性格傾向もなく。あまり台詞のない作品でしたしね。半蔵も無口だし(笑)
◆悪魔×天使

お相手→石田三成








救いの手を必要としている人間はいないかと、わたしは白い羽を羽ばたかせ街の上空をパトロールしていた。
ふとそこで脳にビビビッと電流めいたものが走る。それが近くに迷える子羊がいるという知らせなのだ。
どこにいるのかと首を左右に回して探すと、黄緑色の髪を持つ少年がとぼとぼと肩を落として歩いている。あの子ね…!
わたしはその男の子のすぐ隣に着地した。ちなみに天使は人間からは見えない。

「おれなんか…チェロを続けたって、上手くなりっこないんだ…」

少年からは深い悲しみと一縷の悔しさが伝わってくる。どうやらチェロに対して負の感情が湧いているみたいだ。

――迷わないで。
だってあなた、心の奥底ではまだ音楽に絶望しきっていないじゃない!
わたしは右手を、少年の額にかざした。

『それで本当にいいの?本当はまだチェロをやめたくないんでしょう?』
「おれなんか…。……でも、もうちょっと頑張ったら、冥加部長も認めてくれるのかな…」

天使は道に迷う子羊にポジティブエナジーを与え、諦めを子羊から消し、眩しい光へと導く役目がある。
少年にわたしの声は聞こえてないけど、わたしの送るエナジーに反応して、彼の表情に生気がやや戻った。

なのに。

『いや、貴様は見るからにチェロに向いていない。今すぐ止めろ』

少年を挟んでわたしの向かい側に降り立ち、黒い翼をそっとたたみながら少年に負のエナジーを注ぎ始めたのは、わたしの天敵……!

「ちょっと、悪魔!ジャマしないで下さい!」
「俺には三成という名がある」

赤茶の髪をさらりと払い、高圧的にわたしを見下ろした悪魔――三成は、毎回わたしがこうして子羊を導いていると現れるやつだ。
確かに、役目を果たしていると悪魔がやって来て子羊を間違った道に引きずり込もうとするのは普通のことなんだけど、悪魔も不定期なパトロールをしてるから、同じ悪魔と毎回会うなんてことはない。
のに、この三成とはほぼ毎回会っちゃって、子羊にネガティブエナジーを送って暗い人生に誘うのだ。迷惑な悪魔め!

三成に負けないよう、わたしも少年に更にポジティブエナジーを注ぎ込む。

『いいえ!何事も諦めなければ道は拓けるのです。チェロを続けてみなさい。チェロを愛してるんでしょう?』
「…誰かに迷惑をかけてしまっても、やっぱりおれ、チェロが好きだ」
『くだらぬ。チェロなどやめろ。貴様は己の面を見た事があるのか?チェロには向いていないぞ』
「……やっぱり駄目だ!おれ、今すぐチェロを捨てたくなってきた!」

ああー!!少年が今にもチェロを投げ捨てそうだ!
慌ててポジティブエナジーを送るけど、三成のネガティブエナジーが強すぎて太刀打ち出来ない。
こ、このままじゃ少年の道が閉ざされてしまう…!

その時、オレンジ色の髪を持つ少女が、チェロを投げかけた少年を制止して。

「待って!」
「え…っ、あなたは…?」

そのまま話し始めた二人に、少年の高まっていたネガティブエナジーが落ち着いていくのを感じる。もう安心ね。
わたしは少年から距離を取ると、勝ち誇って口角を上げる三成を鋭く睨み付けた。

「もう!毎回毎回ジャマしないで!」
「たまたま俺がパトロールをしていると貴様が毎回現れるのだよ。俺は悪くない」
「避けてよ!」
「何故俺が避けねばならぬのだ。しかし貴様の力は弱いな。よく天使が務まるものだ」

フン、と三成が嘲りながら鼻で笑う。腰辺りで黒い尻尾がゆらゆら動いた。
イライラが沸騰して、でもわたしの力が三成に劣るのは事実だから言い返せなくて、わたしは思いっきり三成の尻尾を掴んで引っ張ってやった。

「いッ…!何をする!」
「見てなさいよ!次はあんたに勝って迷える子羊を正なる道に導いてやるんだから!」

絶対に絶対に勝ってやる!わたしは鼻息を荒くしながらその場を後にした。










「……偶然で何度も会う筈が無いだろう。俺の気も知らずに…あの馬鹿が」







fin.




これはお題が難しかった…!悩みましたネタに。
七海が友情出演です(笑)
ちなみに七海とはコルダ3のキャラクターですよー。

今作は熱血で活発ヒロインでした!
◆騎士×敵国の王女

相手→土浦梁太郎








国に忠誠を誓った騎士が、その国の王族にも跪くのは当たり前だ。
それが例え、民には貧困を強要し、自分たちばかりが豪遊を繰り広げるような最低の王族だろうと。

おれは騎士だ。
一度国に誓った忠誠を、簡単に捨てやしない。




――そう、思っていた。







我が国と表面的には同盟を結んでいながら、しかし極めて仲は悪く対立している隣国の王女が、今夜の舞踏会に参加すると聞いた。

「梁太郎、アタシはあなたを一番信頼しているのよ」
「……光栄です」

王妃の赤いマニキュアが毒々しい爪に、頬を撫でられ背筋が粟立つ。いつ会っても気味悪ぃほどの厚化粧にキツい香水だ。

「実はあの忌々しい国の王女が、何やら王宮付近を嗅ぎ回っているようなの。いちいちこっちの政治に口を出してきて煩いったら!あの女!」
「………」
「あなたは今宵一晩、あの女のエスコートをしながら見張りなさいな」
「了解しました」

この国の腐った政治は気に食わねえ。
民を顧みない王族にも愛想はとっくに尽きてる。
だが、生まれた国に誓った忠誠は裏切りたくない。
おれは、王妃の命令に跪いて、騎士服の胸元に着いた国旗のエンブレムに手を当てた。











エスコートを命じられた敵国の王女は、淑やかで大人しく、あからさまに敵意を剥き出しにした我が国の王を前にしても柔和な笑みを湛えていた。
既に六十を超えた国王よりもよっぽど、王族としての振る舞いの身についた王女は俺より僅かに年下だ。

「土浦殿、あなたが今宵のわたしのエスコート役だとか」

王女が艶やかな黒髪を揺らして微笑んだ。微かに漂う香水は慎ましく、高貴さを引き立てる。
ブルーのドレスの裾をつまみ、頭をやや下げて挨拶をしてくる王女は優雅なもんで。
――綺麗、ってのはこういう女を言うんだろう。
俺も騎士として眼前に膝を着き、王女の手の甲に額を触れ合わせた。







パーティーも中盤となり、我が国の名家の主や王族の端くれなんかが華麗に着飾る大広間も人間が入り乱れ始めた。
聞こえてくる会話はくだらねえ縁談やら取引ばっかりで、おれはつい溜息を吐く。
ふと隣で王女が愉快そうにおれを見上げていて、おれはすぐに口元を覆った。

「っ、失礼しました」
「いいえ。…風に当たりたいのですけれど、あのテラスには入れるのかしら?」

王女の指差した先には無人のテラス。こんな寒空の下、誰も寄りつかねえ場所だ。
王女はシンプルなドレスに薄手のショールのみ。…風邪ひくんじゃねえか?

「王女、あのテラスには入れますがその恰好では、」
「ほんの一分で構わないの」

王女は緩やかに笑って、だが変に逆らえねえ雰囲気を醸し出した。
仕方ない、機嫌損ねるのも問題だしな。連れてくか。






大広間からは目につきにくいテラスに入り、広間へと続くガラス戸を閉めた途端。
王女はおもむろにドレスの裾を膝上まで破り取った。
びりびりと無残に千切れる青い布。下から出て来たのは白くすらりとした脚と……ホルダーに入った小型銃。
呆気にとられて言葉を無くしたおれが慌てて剣の柄に手をやった時には、王女が不敵な笑みを浮かべて銃口をおれに突きつけた。
……なんだってんだ。何が起きてんだ?

「命が惜しいなら私を王の傍まで案内して。あなたが隣に居たら、王も油断して私を近付けるでしょ」
「は………?」
「王の命を奪い、この国の民を圧政から解放します。心配せずとも王が倒れた後は私の国がこの国を吸収して統治するはずよ」
「………」

さっきまでとは口調も話すスピードもまるで違う。目つきは鋭く、俺から一瞬も逸らされない。
俺は銃口を突きつけられながら、その強い眼差しに釘付けになった。

「…王を撃った瞬間に、おまえも守衛に殺されるぞ」
「王を始末出来た後なら構わない」
「…国からの命令か?こんな命令を王女が請け負うモンなのか?」
「実は、何もかも独断なの。この国の民の貧しさは、もう…見てられない」

王女の表情が辛そうに歪んだ。悲しみの滲んだ顔ですら、おれは綺麗だと思った。
いや、違うな。高い志を持つその精神が、この無謀すぎる女を綺麗に見せてるのか。

「…情けねえ」
「土浦殿?」
「他国の王家ですら危ぶむ民の暮らしに、見て見ぬフリするあいつらも」

大広間で豪勢な食事をたらふく食ってる王とその妻を一瞥して、おれは遂に忠誠を誓うその相手に軽蔑を抱いた。
だが、軽蔑したのはそいつらだけにじゃなくて。

「……国を想う気持ちに逃げてた、おれも」
「土浦殿…」

おれ一人の、ただの騎士一人の力なんかじゃ何も出来ねえと諦めて、その無力さを愛国心で隠して。
情けねえ。…おれは、なんて情けねえ男なんだ。

「後悔するだけで終わるなら、本当に情けない男ね。結局あなたはどうするの?土浦梁太郎」

王女の真剣な声が、ゆっくりと外された銃口が、おれの心を揺らした。

今が、この国への忠誠を、殺す時なのかもな。

おれは、ズタズタのドレスを寒風にそよがせながらも凛と立つ女に、跪いた。

「主を変える恥辱を堪えて、おれはおまえに忠誠を誓おう」
「そう。良い判断ね」

王女は微笑みと共に手の甲を差し出した。銃を握るその手に、おれは唇を寄せる。
王を撃つこの手を、無傷なまま王宮から逃がしてみせる。それがこいつに仕える騎士としての初任務ってやつだ。

「そろそろ行きましょう、土浦殿。いや……行くわよ、梁太郎」
「おまえの望みのままに」








fin.




ただ騎士コスな土浦ってカッコいいだろうなと思っただけです。まあ土浦は何してたってカッコいいんだけど!(笑)

今作はクールヒロインでしたー。こういうヒロイン書くの好きです(^^)
忍者ブログ/[PR]

Template by coconuts
カレンダー
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
リンク
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[07/20 霜月]
[06/19 霜月]
[05/20 霜月]
[03/21 霜月]
[03/11 霜月]
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
氷河心
性別:
女性
バーコード
RSS
ブログ内検索
アーカイブ
最古記事
アクセス解析