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◆傭兵×雇い主

相手→直江兼続








私の父は地元でも有名な豪商だ。父一代で築き上げた金貸し屋。裏では汚い金が大量に動き、薄汚れた取引をいくつも結んでは裏切りの連続。
そんな父が嫌いだ。ずっと嫌いだった。

でも私が金狂いの父の娘なのは変わらない事実で、そんな父の薦める殿方に、私は今まさに嫁ごうとしている。

意に染まぬ結婚。一度も会った事のない殿方の屋敷へと向かう輿に、私は揺られていた。
流されるがままの人生に、涙も出ない。怒りもない。ただ波に流され漂う流木のよう。

「ああ、来たようじゃな」

ふと輿の傍を歩く私の目付役が声をあげた。

「おお!そなたが私の雇い主だな!」

遠くから駆け寄って来た馬の蹄と、それを軽くかき消す程の大声。
ああ、そういえば道中、山賊の出る峠を通るからと護衛に傭兵を雇ったと父が言っていた。きっとその方だろう。
私は輿を止めるよう命じた。すぐに止まった輿の簾を上げ、中からその傭兵の方を覗く。
真白い衣服に変わった兜。何よりも爛々と意志の燃え上がる瞳に、つい目が向かう。なんて、生気に満ちた瞳だろう…。
彼の目が私を見つけ、凛々しさを秘めた笑みを向けられた。

「そなたが、この度隣国へ嫁がれるという姫君だな!私は直江兼続。そなたの父君と交わした護衛の任を、義と愛をもって果たすと約束しよう!」
「あの……宜しくお願い致します…」

熱いお方だ。でも、澄み渡った彼の瞳が、全て本心から出た言葉だと物語っている。

ずっと澱んだ瞳しか知らなかった。
金に狂った父の目も、父ではなく父の作る金を愛する母の目も、屋敷の者達の目も、暗く澱んでいたから。そしてきっと私の目も…。

「兼続、殿」
「はっ。何か御用で?」
「…ずっと輿に揺られるばかりで暇なのです。話し相手になって頂けませんか?」

護衛の任で雇われた傭兵の方に、話し相手を頼むのはおかしなことだ。そう分かっていても私はもっと直江兼続という方を知りたかった。こんなに真っ直ぐな眼差しを持つ方は初めてだから。
兼続殿は一瞬、驚いたように目を丸くしたけど、すぐに柔らかく微笑んでくれた。

「この兼続、騒がしいから黙っていろと言われる事は多々あれど、話してと請われたのは初めてだ!是非とも暇潰しに私を使ってくれ!」

なんて優しい微笑みだろう。その笑顔に自然と私の頬も緩む。
笑ったのなんて、久々だ。…不思議だわ、胸がぽかぽかと温まってゆく。

輿が、動き始めた。
兼続殿は輿との距離が縮まるよう、下馬して輿の横を歩いてくれた。











兼続殿のして下さった話は……彼の口癖を借りるなら義と愛に満ちた話だった。
あまりに眩しい話を、朗々とした声音で続ける兼続殿は、あまり話すのが得意ではない私が単調な相槌しか打てなくても、気を悪くすることなくひたすら話してくれた。
やがて山賊も現れず峠を越え、嫁ぎ先の家からの出迎え一行と落ち合う目的地に到着した。

到着、してしまったのだ。

ここで兼続殿とはお別れ。私は未だ見ぬ男の元へ、父の荒稼ぎの道具として嫁がされる。
まだ相手方の迎えは到着していないようだ。私は兼続殿にご挨拶すべく、輿を降りた。
兼続殿は目付役と何やら話していたけど、私に気付くと晴れやかな笑みと共にこちらへと歩み寄って来てくれた。

「姫君、長旅でお疲れでしょうな。私の話が僅かでも暇潰しに効果があったなら嬉しいのだが」
「ええ。あなたの話はどれもこれも非常に興味深く、私の見る事叶わぬ世界ばかり。ただただ憧れます」
「見る事叶わぬ…?」
「屋敷の奥で銭のぶつかる音を子守歌に眠り、今また金の為に何処ぞの殿方と契る。それが女の生き方とは分かっていますが、それでも、あなたの様に眩い世を歩いてみたかったと思います」

出会って一日も経っていない方。
私の知らない世界を生きる方。
羽虫が篝火に惹かれるのと同じく、私も兼続殿に惹かれているのを感じる。
どうしようもないの。止まらない。

兼続殿は、私の頬をつたう涙に眉を寄せ、苦しげに胸を押さえた。

「………成程。姫君の人生は不義に満ちたものだったのだな…」
「も、申し訳ありません。涙を見せるなど、なんとも情けない…」
「………いや」

兼続殿は首を左右に振ると、おもむろに胸元から風呂敷に包まれた小判を取り出した。

「これは姫君を護衛し終え、つい先程頂戴した報酬だ」
「…そうですか。守って頂き、有難うございました」
「この金を、あなたにお渡ししましょう」
「え?」
「私は義と愛に生きる傭兵、直江兼続!報酬に見合った仕事を完璧にやり遂げよう!」

兼続殿は小判の包まれた風呂敷を私の掌に乗せると、何を言うでもなくただ私を見つめる。
暫くして、兼続殿の温かい眼差しが無言で訴えるそれが分かり、私はどきどきと心臓を高鳴らせた。

「で、では…兼続殿、この金をあなたに渡し、今この場から私を攫えと任務を指示したなら…」
「我が義は決して裏切りませんぞ!」

兼続殿が不敵に笑った。
すぐに私の手から風呂敷を奪い、そして手近にあった馬の手綱を掴み、私を馬上に引き上げる。
目付役がそんな私に気付いて顔色を青くした。

「ひ、姫様?何をっ」
「この直江兼続、只今より姫を攫う任を遂行する!」

夕日が、山の向こうへ沈んでゆく。
目付役やらが一斉に騒ぎ出す中、兼続殿は馬に鞭打ち、疾風となってその場を走り去った。

「兼続殿っ」
「何だ、どうした!?」
「……ありがとうっ!」

兼続殿が、背にしがみつく私を振り返り、静かに微笑んだ。











fin.


兼続をカッコよく書こうとした結果がこれです。兼続をマトモに書けないのだよ…。だってゲームからしてマトモじゃないもの…!

ネガティブヒロインでした!
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彼はリビングに入って来るなり、寝ぼけ眼をくっきりと驚きで見開いた。
そして何やら怒ったような様子でわたしの座るテーブルまで寄って来て。

「今、何時だと思っているのです!四時ですよ!?」
「すみません、惟盛さん…。課題が終わらなくて…明日までに仕上げないとダメなんです」

時計が示すは深夜四時。わたしだって早いところベッドに潜って寝てしまいたいけど。課題なんだから仕方ない。
惟盛さんは五時間前くらいに、わたしより先に寝室に入って行った。おそらく喉でも渇いたから起きてきたんだろう。
丁度いい。眠気覚ましにわたしもコーヒーを淹れようと、凝り固まった肩を回しながら立ち上がった。

「冷たいお茶でも入れてきましょうか?またすぐに寝るんでしょう」
「べ、別に私は自分でお茶くらい用意出来ます。…それで、貴女は?」
「え?」
「ですから、貴女は何を飲みたいのです?ついでですから私自らが淹れてさしあげましょう。光栄に思いなさい」

なんとも珍しいことに惟盛さんがキッチンに立った。いつもなら「何故高貴な生まれである私が料理など」とか言って絶対にキッチンに近付かないのに!
若干、キッチンに慣れてないだろう惟盛さんが心配で、わたしはこっそり影から中の様子を窺う。
惟盛さんはインスタントコーヒーの表記を頑張って読みながら、カップを二つ用意して、砂糖とミルクと――って、あれ?カップが二つ?

「惟盛さんもコーヒー飲むんですか?」
「ッ……!何を見ているのです!盗み見とは誉められた趣味ではありませんよ!」

わたしの呼びかけに慌てた様子で、インスタントコーヒーから目を離す様が、なんていうか可愛らしい。コーヒーなんて自分で淹れたことないだろうに。

「はあ…ごめんなさい」
「ぼうっと間抜け面で立っている暇があるなら、さっさと課題とやらを終わらせなさい。徹夜で大学へ行くなど情けない真似、同居人として私が許しませんよ」

…とても分かりづらいけど、少しでもわたしが課題を早く終わらせられるようにコーヒーの準備を申し出てくれたらしい。
結局適当な量をカップに入れて、ポットから熱湯を注ぐ惟盛さんは、まだキッチンの入口に立っているわたしを鋭く睨んだ。

「何です。早く課題を終わらせなさいと言っているでしょう」
「惟盛さんも今から起きるんですか?まだ四時ですよ」
「私がいつ起きようと貴女に関係無いでしょう。読みかけの本の続きが気になって眠れないのですよ」

さっきリビングに入って来た時はいかにも眠いですって顔だったのに。よく分からないけどわたしに付き合って起きてくれるらしい。
出来たコーヒーをつっけんどんに差し出され、惟盛さんは満足げに口角を上げた。

「飲みなさい。この私が淹れたのですから、不味いだなんて言わせませんよ」
「ありがとうございます。コーヒーもですけど、惟盛さんの気遣いが嬉しいです」

わたしを心配してくれている――んだろう惟盛さんに、素直に礼を言う。
惟盛さんは一瞬目を丸くしてから、すぐに不機嫌そうに眉を顰めてリビングへと行ってしまって。

「誰が貴女を気遣ってなど!別に貴女の様子が気になって起きている訳ではありません」
「そうですか。勘違いでしたね、ごめんなさい」
「くだらない事を言っている暇があるなら、早く課題をしなさいと何度も言っているでしょう。それから何か上着を羽織りなさい。風邪をひきたいのですか?どうぞ私にはうつさぬように」

何とも面倒そうに吐き捨てながら、惟盛さんはソファの背に掛けていた自分のカーディガンをわたしに放り投げてきた。
ふわりと甘い香水の匂いが漂って、その惟盛さんの香りに心が温かくなる。

「ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ。さっさと筆を進めなさい。でないといつまで経っても眠れないではありませんか」
「眠ければ先に休んで下さってもいいんですよ?」
「っ、人が動く気配があると眠れないのですよ!ですから起きているしかないのです!私に迷惑をかけるとは、良い度胸ですね」

惟盛さんは、読みかけの本があるからとか言っていたのに、手にはコーヒーカップのみを持ってわたしがさっきまで座ってた椅子の隣に腰を下ろした。
わたしも再び椅子に戻り、シャーペンを握る。
羽織ったカーディガンと、隣のひとから香る甘い甘い花。
神経質に消しカスを指先でつまんでゴミ箱に捨てている惟盛さんが、とても愛おしくて、わたしはそっと惟盛さんの肩に頭を預けた。
すぐに動きを止めた惟盛さん。しばらくしてわたしの肩に回された細腕が、あたたかい。

「……何です、突然」
「一分だけ休憩をと思って」
「…たまには肩を貸してさしあげるのも良いでしょう。私は心優しい人間ですから」
「ええ。本当に優しいです。大好きですよ」

大好きという言葉に惟盛さんが何を、とか私は別に、とか喚き始めたので、わたしは笑いながら頭を起こして、コーヒーに手を伸ばし、一口含んだ。
苦いのが嫌いなわたしのためか、投入されすぎて溶け切れていない砂糖が、ざらりと舌に乗った。







fin.






眠い。そろそろ4時だし寝なきゃと思ったら突然書きたくなりまして…。なぜ惟盛かといいますと、私が4時まで起きてた理由が、遙か十年祭DVDを見てたからですよ!惟盛ソロ大好きだ!松田さーん!

私にも誰かあったかい飲み物つくってくれないかな…。左近来てー!!(笑)

固定ヒロイン設定の、IF編。
固定ヒロイン設定夢じゃ、絶対に有り得ないシチュエーションをIF編として書きました。やっちまったな!

禁断の悲恋ネタです。悲恋話が苦手な方はお戻り下さいませ。
切なくなってたらいいな。

















いつか、また会えたら。
その時は伝えようと決めていた。










日曜のうららかな午後を思い思いに過ごす人々の溢れる街中。
とても懐かしい姿を見つけて、吉羅はつい足を止めた。
街角の花屋で黄色い花を一輪、手にしている女性。
ああ、間違いなく彼女だ。
ずっと会いたかったようでいて、だが反面避けていたような気もするその姿。
途端に鈍く痛み、だがそれ以上に甘く締め付けられる胸に、吉羅は短く息を吐いた。






星奏学院を卒業し、大学に進んだ彼女と、軌道に乗った学院再建計画にかかりきりになった自分。
互いに多忙を極めて、会える時間がどんどんと減って、電話やメールも少なくなっていった。
それでも、会えた時には会えなかった分の愛情を注いだつもりでいたし、吉羅もまた、穏やかに笑う少女を腕に抱き締めればそれだけで寂しさも不安も消え去っていた。

彼女は笑っていた。
いつだって笑っていた。
その笑顔を何よりも愛していたのに、その笑顔がいつしか翳り始めていた事に、吉羅は気付けなかった。




『ごめんなさい』

不意に彼女は泣いた。ぼろぼろと、いつだって笑っていた瞳から大粒の涙を落として。

『ごめんなさい。本当にごめんなさい』

寂しさや不安や孤独を、ずっとずっと溜め込んでいた彼女の、ウソの笑顔。
その見事に完璧だったウソに気付いたのはあまりに遅過ぎて、吉羅は、唐突な別れ話に言葉を失った。

『もう、無理です』

鳴らない電話。返って来ないメール。埋まらない週末のスケジュール。
もう堪えられないと言った。ごめんなさいと謝りながら、いつも柔らかい笑顔で吉羅を癒してくれていた人は、ただひたすらに泣き続けた。

『ごめんなさい理事長。本当にごめんなさい』

吉羅は何も出来なかった。泣き続ける儚い肩を抱くことも、真っ赤な瞳を見つめることも、ましてや、別れたくはないと言うことなんて。
だって、今、彼女から笑顔を奪い涙を与えているのは、他ならぬ自分なのだから。






携帯から彼女のメモリーが消えて、彼女の通う大学付近には近寄らないようにして、徹底的に忘れようとした。
彼女を引き留めたかったのか、自分から解放してやりたかったのか、自分の気持ちさえ見失って、吉羅はこれまで以上に仕事に没頭した。
仕事を詰め込み過ぎても、食事を抜いても、睡眠を取らずとも、体調を崩しても、もう「無理はしないで下さい」と心配してくれる優しい人は傍に居ない。
何をしていても、何処に行っても想うのはただ一人で、忘れなければと思えば思うだけ、募っていく後悔と恋情。
そう、後悔していた。
あの日、この手をすり抜けて行った彼女を捕まえなかったことを。






だから、もしいつか、また会えたら。
伝えようと決めていた。






花屋の店先で花に見とれる彼女に、吉羅は少し迷ったあとに歩を進めた。

いつも艶やかで吉羅の指先を滑った黒髪はずいぶんと伸びている。
吉羅の甘い台詞にすぐさま赤く染まっていた頬は、未だ白く滑らかで綺麗だ。
纏う雰囲気が大人になった。それだけ、吉羅と離れてから時間が経過したということだろう。
あの頃から止まったままの吉羅の時間とは違い、彼女の時計は止まることなく動き続けていたらしい。

「すみません、これをブーケにしてもらえますか?」

ふわりとはにかんで店員にそう告げた声に、吉羅は心が大きく揺り起こされたように感じた。

ああ、やはり好きだ。
どうして離れていられたのだろう。こんなに、辛いほどに愛おしいと思うのに。
好きだ。彼女だけが、ずっと前から。




もう迷いはなかった。

久々に、彼女の名前を声に乗せた。

振り返った彼女が驚愕する、その薬指に光る指輪に気付いて、吉羅はあと三メートルの所で立ち止まった。

「……理事長」

呆然と、彼女が呟いた。
付き合う前から、付き合い出しても、そして別れた今とあっても、変わらない呼び名が懐かしい。

つい数秒前までは、伝えようと思っていた言葉も、薬指の指輪を見てしまった後では到底言えるものではなかった。

「………」
「………」
「おい、花買えたか?」

二人して黙り込む中、突如として割り込んできた見知らぬ男に吉羅は目を向ける。
彼女と同い年くらいだろう男は、彼女の隣に立つと自然な動作で彼女の持っていた荷物を受け取った。――その左手薬指の指輪は、彼女のものと同じ輝きを放っていた。

「…すいません、コイツが何か?」
「……いや」

あまりにも吉羅と彼女が向かい合って無言でいるため、男が訝しげに吉羅を見る。
掠れた声を何とか出して、吉羅は機械的に笑ってみせた。

「何でも無い。人違いでした」

彼女が弾かれたように顔を上げた。だが何も言わず、泣きそうに顔を歪めて吉羅に背を向ける。
そしてそのまま足早に去って行く背中に、夫は何事かと目を丸くしながら後を追って行った。




そうか。
いつか会えたら、なんて。
自分はどこまで愚かだったんだろう。
「いつか」などと言っている時点で、もう手遅れだったのに。




たくさん泣かせた。
たくさん悩ませた。
それでも、たくさん笑ってくれた愛しい人。
いつか伝えようと思っていた「愛してる」はもう言えないけれど、せめてこれだけは。




「お待たせ致し……あら?」

彼女が注文していた黄色い花のブーケを持って来た店員に、吉羅は向かい直った。






「待ちたまえ!」

急いで去って行った彼女を追いかけると、五分程度で追いついた。
彼女は吉羅の声に肩を跳ねさせ、それでも振り向いてくれた。
何を言ったらいいのか、どんな顔をすればいいのか、分からない様子の彼女に自然と笑みが零れる。
何年経っても、他人に気を遣い、びくびくしている性格が変わっていなくて、とても可愛らしく思った。――ずっと傍で見つめていたかった。

追いかけて来た吉羅に、隣の男が不思議そうに首を傾げた。

「何か?」
「忘れ物を届けに」

言葉少なに説明して、吉羅は彼女の目の前に黄色い花のブーケを差し出した。その中央には明らかに浮いている一輪の白い花。
白い花のために不細工な出来のそのブーケ。受け取った彼女は、だがしかしすぐに目を見開いて息を呑んだ。

「ありがとう」

たった五文字。
別れた時に言えなかった五文字。
驚くほどにさらりと口から出て、ようやく吉羅は長年抱えていた重い何かを処理出来た気がした。

「…ありがとう、ございました」

ごめんなさいと、何度も泣きながら重ねた彼女もまた、ささやかに微笑んで吉羅を見上げた。
その笑顔を最後に、吉羅は二人に背を向け来た道を戻る。

ずっと昔、彼女が星奏学院に在学中だった頃。
学院祭の後夜祭で彼女に贈った白い花のコサージュ。そのモチーフになっていた花を一輪、ブーケに挿して贈った。

当時は愛をこめて。
現在は、別離の記念に。









fin.







自分で書いててつらくなりました。何故書いた!!(笑)

あーなんかめちゃくちゃ甘い吉羅夢が書きたくなったー!!
元々はデロデロに甘い土岐夢を書こうと思ってメール機能を開いたのに。なぜこうなった。
私の勝手なイメージで好きに書いてみた、フライング桜智たん夢。
私は、桜智たんを、「きもちわるい人」として愛でてます。なのできもちわるいと思います。

これは…夢、なのか…?








人の多い大通りを、ゆったりと緩やかな足取りで桜智は歩く。
情報屋としての立場上、すれ違う町人たちの何気ない会話でさえも、無意識に耳は声を拾い、脳に情報として記憶される。
いつもの癖だ。ぼんやりと周囲の声を耳に入れながら、桜智はふと団子屋にてせわしなく働く少女と目が合って、何となく立ち止まった。
桜智の出で立ちはいとも容易く女人の視線を集める。その気だるい雰囲気と、そこはかとなく漂う色香がそうさせるのだろう。
今もまた、桜智の儚げにすら見える立ち姿に、少女は持っていたお盆を両腕で抱きしめながら見惚れていた。そういった視線を向けられることにはもう慣れている。
桜智は口角を上げ、目尻を下げて微笑みかけた。波打つ翠の髪が白い頬に垂れ、髪飾りがしゃんと高く鳴る。
少女は頬を火照らせて、すぐに店奥に引っ込んだかと思うと、団子を二串、包んで持ってきた。

「これは…?」
「あの、宜しければ受け取って下さいませ!」
「そう…。ありがとう、美味しそうだ」

団子がもらえた。微笑みかけただけなのに。何だか予期せぬ得に、今度こそ桜智は自分の意思で微笑んだ。
すぐに少女は顔を真っ赤にして、どもりながらも失礼しますと言い残し店内に戻っていく。
団子は二串ある。

「…ふたつ。……分けたい、が、何処へ参られたのか」

この団子を差し出せば、愛しい少女は笑顔を見せてくれるだろうか。
そう想いを馳せた桜智は、丁度良く目の前を通りかかった想い人の姿に目を丸くした。
桜智に気付かず去ろうとする少女に慌てて声をかける。

「あ…っ!み、神子殿!」
「え?あ、えっと…福地、さん」

白龍の神子である少女は、どこかへ行こうとしていたのか、前を横切ろうとしていた足を止めた。
そして桜智を見上げて、会釈する。
彼女の瞳に自分が映っている。そのことに歓喜しながら、桜智は子供のような幼い笑みを惜しげもなく晒して彼女の前に向かい合う。先程の団子屋の少女が見たなら、さっきまで桜智が纏っていた退廃的な雰囲気はどこへいったのかと目を疑うだろう。
桜智はひとまず愛しい少女がすぐにこの場から離れてしまわないよう、……だが直接手を握るなど恥ずかしくて出来やしないので、少女の着物の裾をやんわりと掴んだ。

「あの、今、君のことを考えていたのだよ。君に会いたいと思っていたら、君が現れた」
「そうだったんですか。何かご用ですか、福地さん?」
「よ、用って程でもないのだが…。…あと、その、良ければ、桜智と呼んでもらえまいか?君になら、呼ばれても構わない」

福地さんという呼ばれ方はどうも他人行儀な気がして、桜智はおずおずとそうお願いしてみた。
彼女はぱちくりと大きな瞳を瞬かせるが、すぐに柔らかい笑みを浮かべて頷いて。

「桜智さんがそう言うなら」
「あ…あの、ありがとう、神子殿」
「それで、私に話って?」
「団子をね、ついさっき手に入れたのだよ。それで、君と食べたいと…」

少女の裾をつかんでいる手とは逆の方で持っている団子。それを眼前に差し出すと、彼女はその用件が意外だったのか少し驚いている様子だったが、すぐに手を伸ばして受け取ってくれた。
彼女が手を動かしたことで桜智の握っていた裾も離れてしまったが、嬉しそうに団子を受け取ってくれたので良しとしよう。

「ありがとうございます!いいんですか?」
「君に喜んでもらえて光栄だよ。どこかで落ち着いて食べないか?あ…その、君が良ければ、だが」
「もちろん大丈夫ですよ。それじゃ…あっちの人が少ないところで…」
「っ!」

不意に、彼女が、桜智の手を取った。
そしてそのまま人通りの少ない路地にまで歩いて行く。
触れ合う肌から伝わる、少女の体温。みるみるうちに桜智の頬も熱を持っていく。

「…桜智さん?顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ。どうか気にしないで…」

桜智の態度に少女が顔を覗き込んでくる、その視線から咄嗟に顔を逸らしながら、桜智は高鳴る鼓動を隠して静かに微笑んでみせた。









中途半端に終わってみる。

私の中の桜智像はこんな感じです。
他の人には気だるげで色っぽくて、どこか浮世離れした空気を纏うんだけど、神子の前だと一気に純情になるというか。幼くなるというか。
他人の前では知盛っぽく、神子相手だと遠夜っぽく、的な。どんなキャラそれww

ひとまず新たに更新された桜智の立ち絵と、スチルにやられました。特にスチルにやられました。早く桜智に会いたくて仕方ないです!
ムチの構え方の色っぽさ、半端ない。

あと遙か4愛蔵版…。トレジャー買うべきかな…。悩む。

てことで、次のネオロマ無双ラジオに置鮎さんがゲストに来るときいて喜んでます!!早く来週こい!
突発的に書いた吉羅夢!
固定ヒロイン設定のつもりで書きましたが、どっちでもいい感じです。
とにかくベタベタに甘くしてみたかっただけです。クールな吉羅はどこへ行った!(笑)











「愛している」と意を込めて







「月がきれいですね」

左隣に立つ彼女の、感嘆したような囁きが耳に届く。
その声は私の鼓膜を震わせ、じんわりと熱い痺れが体を犯し、やがて鳩尾辺りを甘く締め付ける。
彼女の声が好きだ。時に儚く、時に凛と響くその声は、私の心を鷲掴んで離さない。
ベランダで二人並び、夜空を見上げるひと時。常より緩やかな時の流れる、二人の世界。

「あ、何の星でしょう?まわりに比べて、とても明るい…」

ふと、彼女が夜空の一ヶ所を指差して思案気に呟いた。
彼女の人差し指が示す先ではなく、その指先をそっと眺める。
普段ヴィオラを奏でる為の指は傷一つなく、滑らかな肌。すぐさま触れて口付けてしまいたくなる。
彼女の指が好きだ。その指が奏でる清らかで麗しい音色は、彼女の存在そのものだからだ。
彼女の音色に魅了され、耳から離れなくなり――だが私はその優しい束縛を敢えて受け入れよう。

君が、どうしようもなく愛しいから。

「…理事長?あの、」

私が彼女の言葉に何一つ返事をしない事を訝しんだのだろう、彼女が私を見上げた。
ふわりと揺れる髪。何度も撫で、何度も指を滑らせた彼女の髪。
彼女の髪が好きだ。いつも顔を埋めれば清潔感のある香りが漂って、ついそのまま何度も唇を寄せてしまう。
今もまた、彼女が空から私へと顔を向けただけで仄かに漂う香りに、私は彼女と目を合わせる前にその前髪に口付けた。

「えっ、わ、」
「つい、甘い香りに誘われてね」
「シ、シャンプーでしょうか」

慌てて身を捩る、その細い体を腕に閉じ込めた。あどけなく蕾を開くささやかな花を、手折って独り占めするように。

「理事、長っ」

艶やかな前髪から額、眉間を降りて鼻先、それから頬へと。
触れるか触れないかの距離で啄んでいくと、だんだんテンポを上げていく私の脈。左手を彼女の白い首筋に当てれば、同じテンポの鼓動が指を打つ。
お互いにお互いを意識して、緊張して、焦がれている。――同じ感情を共有する事が、これ程までに幸せな事だったとは。

「り、理事長っ、」
「嫌かね?」
「そうじゃ、なくて…!」

私の胸元に手を突いて押しやる彼女の抵抗など些細なもので、朱の差す目の前の可愛らしい頬にもう一度口付ける。
そのまま、こめかみへと移動し、耳朶にやんわり歯を立てた途端、彼女の膝がかくん、と抜けた。
反射的に彼女の腰に腕を回し抱き寄せ、内心やり過ぎたかと反省しながらその身を支える。

「すまない、大丈夫かね?」
「大丈夫じゃないです…ッ!」
「あまりに君が愛おしいからね。つい歯止めが利かなくなってしまった」
「しりませんっ」

機嫌を損ねたのか、彼女はしっかりと自力でバランスを立て直すと、私の体を押しやり距離を取った。
つんと私から顔を背けて室内へと向かうその背中を抱き締めたいと感じる自分に、思わず苦笑してしまう。
本当に、彼女に関してはどこまでも貪欲になってしまうらしいな、私は。

「月が綺麗だね」

室内へ続く窓を開く彼女の背中にそう投げかける。
彼女は拗ねたような顔で振り返り、だがすぐに口元を華やかに綻ばせた。

「…はい。本当に」






fin.








「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した夏目漱石の逸話が好きで、なんか前にも似たような話書いたような…。ネタがかぶってたらすみません(笑)

吉羅さんは「自重」を覚えればいいと思いました。私もだが!
一時間くらいでファサッと書いたものなので誤字脱字があったらすみません…!
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