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土岐夢です。名前変換無しで、ゲーム主人公設定。
甘い…かな…?









陰る事を知らない太陽がじりじりと肌を焦がすのを不快に思い、土岐は眉を寄せる。
その瞬間にヴァイオリンの音が乱れ、隣で弾いていた東金が演奏中だというのに徐に楽器を下ろした。
溜め息を吐く東金の様子に土岐一人で演奏を続ける訳にもいかず、また東金の要望通りに演奏出来なかった自分に非があるのも重々承知。
土岐は申し訳なさに胸を重くしながら同じく楽器を下ろした。

「千秋、」
「今日は特に暑い。それにぶっ通しで練習しちまったしな。そろそろ休憩にするか」
「…堪忍」
「気にするな。芹沢、蓬生に冷たい水でも買って来てやれ」

暑さにやられた、というのもあるが体調の崩れやすい土岐はやはりスタミナも不足しがちだ。
東金はそんな土岐に気を遣い休憩を口にしたのだろうが、本人は再び楽器を構えソロ部門決勝の課題曲を奏で始めた辺り、まだ体力に余裕があるらしい。
…足を引っ張っている。だが無理をして演奏を続けた所で、さっきのようにミスを出してしまうに違いない。
ここは東金の優しさに甘え休ませてもらおうと、土岐は楽器を片付け近くの木陰へと移動した。
疲れを自覚した途端に足元がふらつき始め、目に映る全ての光景が薄く陰ったように見える。
これは思っていた以上に暑さにやられていたようだと、弾む息を整えながら草むらに腰を下ろした。
東金の澄んだ、それでいて甘い音色が耳に触れる。より聴こえるよう、土岐は視覚を封じた。
…思えば、東金と練習を始めてから二時間は経っている。
昼食も東金や芹沢、神南の部員達と同じだった上、午前中には何故か至誠館の部長と音を合わせたりなんかして。

――今日は、他人と居すぎた。

楽しくない訳ではない。東金や八木沢らが嫌いな訳でもない。ただ、誰かと時間を共有するのが酷く疲れるだけで。
普段なら誰かと過ごした後は五分でも十分でも一人で静かに休み充電する所だが、今日は間髪なく誰かと居た気がする。
ああ、だからこんなに疲れているのだろうか。土岐は自身のヤワな体力にふっと自嘲を零した。
東金は未だヴァイオリンを奏でている。…ふと彼が羨ましくなった。
他人と居ても苦痛にならない気分とはどんなものなんだろうか。むしろ東金は他人を寄せ付けてしまうタイプだ。土岐にはとても真似出来そうもない。

「副部長、水です」
「ん…ありがとうね」

ふと芹沢の声が近くで聞こえて目を開く。
芹沢はすぐ側に立ってペットボトルを差し出していた。それを受け取りながら、こめかみが鈍く痛む事に軽く息を吐く。
自分の領域に他人が入り込んでいる事への異物感が、土岐の体を苛む。
頭痛も鳥肌も嘔吐感も目眩も、全てが精神的苦痛からきているのだろう。…眠ってしまいたい。誰も居ない暗がりで横になってしまいたい。
涼しさを与えてくれる安らかな夜が、恋しい。

「…副部長?顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」

芹沢が不安げに顔を覗き込んでくる。心配をしてくれているのだと分かってはいても、正直早くどこかに消えて欲しい。
誰かが自分の隣に居る。自分に話しかけている。自分を覗き込んでいる。…耐えられない。

「平気やから、あんたは東金にも水渡してきたらええよ」
「ですが…」
「俺はほんまに平気やって」

つい乱暴に吐き捨ててしまい、すぐに大人気ない自分に嫌悪感が込み上げる。だがすぐに謝れる程頭は冷えておらず、そんな余裕もなくて。
とにかく、今すぐひとりになりたいのだ。

「芹沢!水渡したらさっさとこっち来い」
「東金部長…しかし…」
「この俺がさっさと来いと言ってるんだが?」
「…分かりました」

渋々ながら芹沢が東金の元へと駆けて行く。遠くなる背中にほっと安堵の息を吐いた。
他人の気配が周りから消える。相変わらず東金のヴァイオリンは聴こえるし、蝉の鳴き声も騒がしいけれど。
それでも今、土岐と繋がっているものも繋がろうとしてくるものも何ひとつない。とても清々しい気持ちだ。
額に冷たいペットボトルを当てながら、いつしか土岐は浅い眠りに落ちていた。






「蓬生さん」

耳元で朗らかな声が聞こえ、ふわふわと夢と現実の狭間に漂っていた土岐は反射的に目を開いた。

「わっ。すぐ起きた」
「…なんや、びっくりした」

すぐに目を覚ますとは思っていなかったのか、目と鼻の先にあった少女が目を丸くしながら離れた。
彼女の柔らかな髪先がふと頬を掠め、ほのかにシャンプーの香りか何かが土岐の鼻をくすぐる。
たったそれだけのことで、心臓が過剰反応した。
今までそれなりに交際してきた女子達には一度たりとも弾まなかった胸が、どうして今だけ。…正確にはどうして、彼女にだけ。

「大丈夫ですか?東金さんから、具合が悪いみたいだから様子を見て来いって言われたんですけど…」
「千秋に言われたから?それだけ?」
「へ?」
「あんたは心配してくれてへんの?」

不思議なものだ。さっきまであれだけ他人と時間を共有する事に辟易していたのに、今は少しでも彼女の声を聞いていたいと思ってしまう。
もっと話して欲しい、もっと見て欲しい、もっと傍に来て欲しい。
こんなに欲深な人間ではなかった筈なのに、彼女の事となると際限なく貪欲になってしまって。
少女は目をぱちくりと瞬かせたあと、花開くように笑った。

「もちろん心配ですよ。蓬生さん、すごく静かに寝てるから最初は寝てないのかと思ってたけど」
「なんや、俺はイビキかきながら寝てそうやとか思ってたん?傷つくわぁ」
「ち、違いますよ!そうじゃなくてっ」

ほんの冗談にも真剣に慌てる少女の素直さが、愛らしくもあり眩しくもある。
見たまま聞いたまま感じたままを表情に出す彼女は、一緒に居てとても心地良い。
ぺちゃくちゃと余計なお喋りもなく、だからといって苦痛になるような静寂もなくて。
まるで彼女は自分と共に居る為に存在しているのではないのかと、馬鹿な事を考えるくらいに土岐は彼女を特別に思っているのだ。
彼女が土岐をどう思っているのかは分からないし、頑張り屋な少女を特別に思う男も土岐だけではないのだが。
彼女の柔らかそうな薄い色素の髪をそっと撫でた。予想に違わず柔らかい。

「怒ってへんよ。あんたをからかうんは楽しいからついつい…。堪忍な」
「怒ってないならいいです。からかうと楽しいっていうのもよく言われるから慣れました」
「…まあ、あんたがそれでええならええんやけど」

やはりどこか抜けている彼女は、未だにこにこと微笑んでいる。可愛いと口にしそうだったが、それは飲み込んだ。本当に心から可愛いと思ったから、音にすれば途端に嘘っぽくなりそうで。
今、彼女という存在が自らの領域に入っているのに、感じるのは異物感ではなく幸福。
簡潔に言えば彼女を気に入っていて、だがそれを自覚したくなくて。
彼女に惹かれれば惹かれるほど自身の脆さをさらけ出している事に気付いている土岐が、今以上情けない姿を見せたくないと思うのは当然の帰結だ。

「普通に話せるみたいですし、蓬生さん、元気ですね」
「病人扱いは嫌やわ。ちょっと疲れたから休んどっただけやねんで」
「ひと安心です。それじゃ東金さんに伝えて来ますね」
「………待って」

立ち上がる少女の細い腕に縋るように掴んで引き留めた。
不思議そうに首を傾げる彼女に、傍に居てもらえる理由を考えに考え抜いて、そして。

「…行かん、といて」
「蓬生さん…」
「あとちょっとでええから、俺の隣におって」

無様にも、上手い理由など何一つ浮かばなかった。何故彼女と向き合っていると余裕がなくなるのか。
少女は少し面食らったあと、静かに隣に座り直した。
そして彼女を引き留める際に上体を起こしていた土岐の頭をぽんと、子供をあやすように叩いて。

「はい。居ます」
「…あかんね、なんや、思うてた以上に弱っとるみたいや。甘えるなんて恥ずかしいわ」
「そうですか?いつも通りですよ。蓬生さんは甘えん坊だもん」
「…そう、か?」

酷く驚いて彼女に尋ね直すも、相変わらず土岐の頭をなでなでしている少女は頷き返すのみ。

「…甘えん坊やなんて言われたん初めてやわ」
「あれ?じゃあ私の勘違いかなあ」
「いや、あんたが言うならそうなんやろ。あんたとおる時が一番、…自然体やから」

遠回しに特別な存在なのだと主張してみた土岐の気持ちは勿論届かず、少女はそうですかとふわふわ笑っただけだった。







fin.




ただ土岐が甘えん坊だと主張したかっただけです。
東金は、ひなちゃんに頭を撫でられてる土岐を見て安心してたらいい。「あの蓬生が心開きかけてやがる!良かった良かった」的な。あれ…お父さんポジション…?(笑)

まあこんな光景を見たらすぐさま大地さんは邪魔しに来るでしょうがね!
ひなちゃん書いたの初めてか?ひなちゃんは天然さんで、さらっと悪意なく失礼なこと言いそうな感じ(笑)
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唐突に書きたくなったので書いてみた!
土岐×かなで…というか、土岐のモノローグ。

土岐への愛が止まりません。








「…ほな、おやすみ」

たった30分の通話時間。だがそれも現在が深夜0時過ぎだと示す時計と、電話の相手が明日も朝から学校だという事実を知れば仕方ないことだろう。
秋は夜が長いというが、土岐はいつにも増してそれを実感していた。
秋は好きだ。体の弱い自分は夏が大嫌いで、その地獄を乗り越えた先に待つ涼しい季節は何だかちょっとしたご褒美みたいに思えてくる。
まあ、暑さに耐えるばかりで他には何も頑張ってはいないのだからご褒美というのは自分を甘やかし過ぎていると自覚はしているが。
自室の窓から吹く風は心地良く、薄紫の髪を揺らす。常に髪先を纏めている紐は、もうベッドに潜り込まなければならない時間である為に外していて。
秋は夜が長い。…だから、夜が重い。
朝は嫌いな筈なのに、淀む暗闇に細く輝く三日月を見ていると、どうしようもなく太陽が恋しくなるのだ。
夜だけではない。昼間もふとした時には太陽を見上げ、その目映さに目を奪われる。
まるで病気のようなこの症状は、つい先日発症した。詳しく言えば今年の夏辺りから。
つまりは会いたいのだ。会いたくて会いたくてたまらない。
太陽の如く輝き続ける、自分には眩し過ぎる少女に。

「…遠距離恋愛なんて、するモンちゃうわ」

先程まで自らの鼓膜を震わせていた愛しい声の主は、もう眠りについてしまっただろうか。
彼女は音楽を除けば何よりも睡眠を愛する主義である。きっと寝ているだろう。
明日も朝から練習に励むと言っていた。…ああ、あの穏やかで暖かい音を、今すぐ聴けたなら。

「重いわ…俺。気持ち悪」

すっかり彼女に酔わされている己に苦く笑い、土岐はサイドテーブルに眼鏡を置くとベッドに横たわった。…窓を閉め忘れたが、もう起き上がる気にはなれない。

「(明日は…朝から数学やな。放課後には部活にでも顔出そか。たまには後輩も労ったろ)」

なんてことない日常。明日もきっと朝から幼なじみと顔を合わせ、見慣れた教師達の授業を聞き流し、ヴァイオリンを奏でて、寝て。
…これが普通だ。そう、今年の夏までは、そんな平凡な日常に不満などなかったのに。
だから、恋とは厄介なのだ。一度味わうと二度と手放せない麻薬のよう。

「…あかん。限界や」

土岐は跳ね起きた。再び眼鏡を着け、一番近くにあった制服に着替えるとキーケースだけを握り締めて部屋を飛び出した。
自分が神戸で適当に毎日を過ごす間、彼女は遠い横浜で沢山の笑顔を周りにばらまいているのだ。
あの華やかな音で観衆を魅了し、多少頼りない人柄で男を惹き付け、親しみやすい笑顔で友達とはしゃぎ、毎日楽しく過ごしているに違いない。…土岐のいない日常でも満足しているのだろう。
あの星奏の軟派な元副部長にでもちょっかいを出されていたならと考えると、嫉妬に全身が燃えたぎるようで。
俺、こんなキャラちゃうっちゅうねん、とぼやいた所で後戻りは出来ない。たとえ時を遡れたとしても、きっと土岐は彼女に恋をするだろう。
残念ながら彼女とは違い、土岐は彼女の居ない日常では全く満たされていないのだから。
突然、目の前に姿を現したなら、どんな反応をするだろうか。…というより自分が何をしてしまうかが不安である。
思っていたよりずっと依存体質で寂しがり屋な土岐蓬生は、きっと目が合った瞬間に小柄な体を腕に閉じ込めてしまいそうで。

「…末期やな」

だがこんな病に倒れるのも悪くない。
弧を描く口元が次に開いたのは翌朝、菩提樹寮の前。
愛しい少女の名を囁く、その時である。




fin.





土岐→→→→←かなで、くらいが大好きです。
土岐さんは恋に溺れて依存しまくればいい!

ちなみに翌朝、土岐の無断欠席にやれやれと溜息を吐く千秋は私がもらう(黙れば?)
書いてしまった!
コルダ3火積夢です。フライングなのでキャラ捏造だと思われます。
マンガの火積があまりに素敵すぎた。






「ほらっ」
「…………」
「ほーら。ほら!」
「……だから、」
「ほ~~~~ら!」
「………ハァ」

真っ白な毛を誇る子猫が、火積の目の前で様々なポーズをとる。
短い両手で頭を抱えたり、小首を傾げたり、しっぽをふにゃふにゃと揺らしたり。
もちろん猫がそんな可愛いサービスを積極的にしてくれるはずはなく、火積の隣にいる少女が半ば無理やりに猫を動かしているのだ。
だが猫も彼女に懐いているのか、不満げに鳴くこともなく身を委ねていて。
そんな猫と一人楽しそうな彼女に、思わず溜め息をついてしまった火積はすぐにしまったと口を閉じる。
だが、時、既に遅し。

「…もう!どうしてそう、火積くんは仏頂面なのかなあっ!」
「……悪い…」
「こーんなに可愛い子猫ちゃんがこーんなに可愛いポーズをしてるのに、表情ひとつ変えないなんてさ!」
「…すまねぇ…」

十分前、冬にしてはぽかぽか陽気の休日を楽しもうと、火積は恋人である彼女とこの公園に来ていた。
飲み物を買いに行くと自販機まで行ってしまった少女の帰りを待つ間、火積の目に映ったのは白い子猫で。
野良にしては毛並みも整っている、おそらくどこかの飼い猫だろう。気ままに散歩中か、はたまた脱走中か。
どちらにしろその可愛らしい動物は火積の興味を惹いた。…動物は嫌いではない。
近寄ろうとベンチから立ち上がったが、ただそれだけで子猫はひらりと繁みに逃げてしまった。
日頃から小動物だけでなく人間からも距離を置かれることの多い火積だ、少し傷ついて猫に伸ばした手を引っ込めるのを忘れたが、そんな動揺が顔に出ることはない。
なんてことをしている内に少女が二人分の飲み物を買って帰って来たので、再びベンチに落ち着きのんびりしていたところ。
その子猫が少女の膝に飛び乗ってきたかと思えば、そのままくつろぎ始めたのだ。
少女の無意識に放つ穏やかで暖かい雰囲気に懐いたらしい。火積も彼女のそういった所に惹かれているのだから、子猫の気持ちはよく分かる。
顔を撫でたり喉を慣らしたりと可愛らしい仕草を見せる子猫にすっかり興奮した少女に対して、火積はただ黙ったまま子猫を見つめる。
顔にはやはり出ていないが、心の中ではそれはもう抱き上げたくて撫でたくて仕方がないのだが。
そんなことをしてしまえば、子猫はきっと逃げてしまう。自分は誰からも怖れられる存在だと分かっている。
だがそんな火積の諦めを知るよしもない少女は「こんなに可愛い子猫ちゃんを前に笑わないなんて許せない!」と突然怒り出し、面食らう火積を無視して子猫の可愛いポーズを見せ始めたのだ。

「もう…信じられないよ。火積くんってばほんとに何とも思わないの?こんなに可愛いのに」
「いや……俺は、」
「可愛いなぁ…可愛いなぁもう…」

火積の話を聞く気がないようで、可愛くない訳ではないと言おうとした火積は仕方なく口を噤んだ。
思っていることを声に出さないから周囲に誤解されるのだと分かってはいるが、どうも考えを伝えるのが苦手なのだ。
それに。
子猫にメロメロになっている少女の柔らかな笑みがあまりに愛しい。その笑みを、自分がわざわざ話しかけることによって消したくはない。
子猫が寝転べば、寝転がれば、一鳴きすれば、その度に幸せそうに微笑む少女が、とても…。

「可愛い、な」
「やっと分かった?すっごく可愛いよね!子猫ちゃーん、火積くんの方も見てあげて?」
「いや、そうじゃなくて………」
「あ、写真撮ろう!今日デジカメ持ってきてるから!」
「………ああ、撮ってやる」

またしても誤解されてしまったが、まあいい。改めて子猫じゃなくお前が可愛いのだと、火積に言えるはずがない。
カバンの中をごそごそと漁り始めた少女の膝が揺れるのか、子猫は迷惑そうに鳴いて火積の膝に移ってきた。

「……お前、」
「にゃう」
「……変わってるな、お前も…」

自分などに近付いてくるなんて、変わり者以外の何者でもない。
その愛らしい変わり者の頭をくすぐるように撫でてやると、子猫は気持ちよさそうに目を閉じる。
瞬間、耳に届いたシャッター音に火積は音速の速さで隣を見た。

「火積くんと子猫ちゃんの戯れショット!いただきました!」
「……消せ」
「部長に見せなきゃね」
「……やめてくれ…」

もう一人の愛らしい変わり者は、火積を見て楽しそうに笑った。
そんな風に笑われてしまえば、火積も眉間の皺を消すしか出来なくなってしまうのだ。








内容は全然祝ってませんが愛する理事長の誕生日記念夢です!
若干アダルティかも。たいしたことないけど。







未だ年が明けて三日目だというのに、何が悲しくてこの男は仕事などしているのだろう。しかもこの男、今日が誕生日である。
彼の「匂い」を辿って来てみれば到着してしまった星奏学院の理事長室。あたしはノックもせずに入室した。

「………」

突然の来訪者に弾かれたように頭を上げた吉羅暁彦は、やはりデスクに向かっていた。手には書類。
予想を裏切らない状況にあたしは噴き出しそうになりつつも、それを抑えて明るく笑ってみせた。

「りーじちょ!明けましておめでとうございます!あと誕生日おめでとうー!」
「…今日は遠慮してくれないかね。朝から体調が悪い」

他人が聞いたら会話が噛み合ってないと首を傾げるだろうが、あたしはしっかり意味を理解した。
もうこりごりだと言わんばかりの顔をして書類を投げた吉羅暁彦に足早に近付き、その綺麗な顔に指を這わせる。

「真っ昼間から動いて、あたしも疲れてるの。だからリジチョの言う事は聞けないですね」
「最初から聞く気などないんだろう。誰よりも横暴なお前の事だ」
「分かってるなら早くして。…ついでにカーテンも閉めて下さる?明るくて吐き気がする」

吉羅暁彦の頬を軽く叩いてから目を逸らし、あたしはふかふかのソファに飛び乗った。
彼はしばらくあたしを睨んだまま微動だにしなかったが、やがてのろのろと立ち上がりあたしに言われるがままにカーテンを閉める。
暗くなった室内。でもあたしにはさっきより余程視界がクリアになった。

「…電気をつけても構わないかね」
「毎回飽きもせずによく訊きますね。余程物覚えが悪いのかしら?答えはノーよ」
「…お前と違って私は、暗い中を自由に歩けないんだが」

カーテンから漏れ出る微かな光を頼りに、あたしの獲物はゆっくりとソファに近付いてくる。
その様子は普段横柄で尊大な彼からは予想もつかなくて、あたしは大爆笑だ。
普段とのギャップが大きい人は好き。服従のさせがいがあるから。
やがてあたしの笑い声に導かれて吉羅暁彦がソファの前に来た。でもそれ以上動こうとしない。

「早くして下さい。それとも無駄にあたしを焦らして痛くして欲しいの?」
「…今日は、本当に体調が良くない」
「知らないわ。あたしはわざわざリジチョの誕生日を祝いに来たんですよ?その褒美を貰うだけ」
「…頼む。いつもより量を減らしてはくれないかね。少しで構わない…」
「好きなくせに。失神しちゃうまでされるのが」

可笑しくて笑っちゃう。あたしが他人の言うことを聞かないって知っていながら、往生際の悪い男なこと。
でもあたしに適わないと知りながらも抵抗をしようとする馬鹿は嫌いじゃない。素直に言われるがままの奴は味気ないから。
あたしは立ち上がって吉羅暁彦の左手をそっと取った。ぴくりと彼の指先が痙攣する。
手首、そこの血管に流れる血。あたしの主食。とびきり美味しい吉羅暁彦の血。
あたしが彼の血しか飲まなくなってずいぶん経つ。吉羅暁彦の血はとても美味だし、何よりそういう契約だから。
吉羅暁彦があたしに従うなら、あたしは吉羅暁彦以外の人間に…星奏学院の生徒には手を出さないという契約。
邪魔な腕時計を放り投げて、白く細い手首にあたしは口づけた。浮いた血管に緩く歯を立てると吉羅暁彦が息を呑む。

「止めてくれ…そこからは…」
「なら早く準備して下さいます?リジチョが一番イイところ、教えて下さい」
「…必要最低限しか吸わないと約束したまえ」
「寝言は寝てから言いなさい。あたしは命令されるのが大嫌いだと知ってるでしょう?」

きっと彼が嫌悪感をあらわにするだろう笑顔を浮かべて、あたしは吉羅暁彦の首筋を撫でた。
ゆるりと鎖骨をなぞり、シャツのボタンに手をかける。
すると乱暴に払いのけられた。ボタンには彼自らが触れて、もぎ取るように一つ一つ外していく。
彼は首からの吸血が好きなのだ。手首は結構痛いみたい。あたしは手首から吸われた事がないからその痛みを知らないが。

「逃げられないって分かってるくせに、毎回素直になるまでが長いんだから」

黙ったままあたしの前で素肌を晒していく彼を嘲った。
吉羅暁彦は憎しみの籠もった酷く醜い顔であたしを睨み付けた。綺麗な顔をしている人間がそんな表情をするのが、あたしは大好きだ。

「…誰が大人しく何百歳もの吸血鬼に身を委ねるものか。早く消えて欲しいと願っているよ、心から」
「カーテンを閉めた時点で、あなたの負けよ。…気持ちイイでしょう?血を吸われるのは」

これまで獲物にしてきた人間達の末路を思い浮かべながら、あたしはソファに再び腰掛け手を伸ばした。

最初は誰だって嫌悪する。吸血鬼という摩訶不思議な女に理不尽に服従を強要される事に。
だがあたしに適わないと思い知り、吸血される悦びを知ってしまった人間は最終的に自ら下僕になりたいと言い出すのだ。
そうなった人間の血は本当にマズくて、あたしがいなけりゃ生きていけないと泣く人間をあたしは何人も放り出してきた。
吉羅暁彦がそうなってしまうまで、あとどれだけかかるだろうか。とても楽しみだ。…簡単にはそうなって欲しくはないが。

シャツの前を完全にはだけさせた吉羅暁彦の手が、伸ばしたあたしのそれに重ねられる。
あたしは彼の手を引っ張り、次の瞬間にはソファに転がった彼に馬乗りになった。
人間はなんて軽くてのろいんだろう。本当に可笑しくて楽しい。

「吉羅暁彦、あなたもいつかは自分からあたしに跪くの」
「止めたまえ」
「そして乞うわ。血を飲んで下さいって。ずっと側に置いて下さいって」
「黙れと言っている!」

整った顔が激昂に歪んだ。その表情が何よりも好きなあたしは酷い奴。
彼が身を捩るのを拘束して白い首筋に容赦なく歯を突き立てた。尖った歯が皮膚を破った瞬間、彼が鋭く呻いた。
ちろちろと流れ出る甘い血で喉を潤す。多分一週間ぶりの血はとても美味しくていくらでも飲めちゃいそうだ。
吉羅暁彦が仕事が忙しいと素っ気ないから。
血の飲めない期間が長い程、久々の吸血は量が多いのだと何故分からないのか。

「ッ……、もう…」

荒い息を必死に押し殺しながら吉羅暁彦があたしの体を押し返そうともがく。
だがただでさえ彼は人間の上、急速に血を失っているから貧血気味だ。そんな彼の力など軽く無視出来るレベルで。
ごくごくといつもより多めに血を頂いていると、吉羅暁彦の低い声がか細く鳴いた。

「あ、ッやめ…!もういい、だろうっ」
「最後までして欲しくないの?」
「は…ふざけ、たことを…ッく…」
「中途半端はツラいんじゃないですか?」
「し、ぬ…」

だんだんとあたしの服をすがりつくように掴んでいた吉羅暁彦の指先がほどけていく。
荒かった呼吸も静かになってきて、これはやばいなとさすがに感じてあたしは唇を離した。
ふたつの牙痕から一筋赤い血が白い首を零れて、ワイシャツの襟元を汚した。

「…理事長?」

答えはない。顔を見ると真っ青で、瞼は閉じられている。
脈はちゃんとあるし、頬を叩くと眉が不満げに動いたので気を失っただけだろう。

「…殺しはしないわ」

過去に何百人という人間の血を頂いたけれど、こんなに美味しいのは珍しい。…吉羅暁彦という人間自体にも興味があるし。
殺したりしない。もっとあたしに付き合ってもらわなくては。
指で彼の首筋を伝う血を拭い、牙のせいで傷ついた箇所を舐める。吸血鬼の唾液は些細な傷なら瞬時に治してしまうから。
あたしは体を起こし、吉羅暁彦の乱れに乱れたシャツをしっかり整えてやるとコートを適当にその身にかけた。
吉羅暁彦が目を覚ますまで見ていてあげる程あたしは優しくはない。彼だってあたしの顔も見たくはないと思うから。

「またね、リジチョさん。誕生日おめでとう」

次はどんな事をして彼の顔を歪ませようか。
吉羅暁彦の死んだような寝顔を最後に見て、あたしはそっと部屋を出た。






…理事長ごめんなさいー!なんか…普通には祝いたくないなと思いながらネタを考えたらこんなんになっちまった!
前から吸血鬼なドSヒロインは書いてみたくて、ずっと金やんで書こうと思ってたんだけど理事長で書いちゃった(笑)しかも誕生日記念ww
誕生日なのに可哀相な理事長になりましたが、虐げられる理事長は書いてて楽しかったのでまた続編書くと思われます(攻めヒロイン好き)

とにかく理事長おめでとうー!
『ミューズに捧げるラブソング』

志水夢。ほのぼの甘。
※また後日、名前変換有りにして夢ページに移します!





つい二時間前、可愛い後輩から「森林公園に来て下さい」という突然のメールが届いた。
何か用事かと尋ねるも教えてくれず、何も分からないままとりあえず香穂子は待ち合わせ場所の森林公園へやって来たのである。
だが香穂子としても、呼び出された相手、志水には用があったので突然の呼び出しにもうきうきでやって来たのだが。
何といっても今日はクリスマスイブだ。クリスマスといえば去年のクリスマスコンサートを思い出す。
演奏曲、観衆からの盛大な拍手、そして…コンサート後に受けた、志水からの告白。
思い出すとつい顔が緩んでしまい、香穂子は慌てて引き締めた。

「香穂先輩」
「志水くん!」

ふんわりと名前を呼ばれ、ベンチに座っている志水に気付いた。志水は立ち上がって緩やかな笑顔のまま香穂子に歩み寄ってくる。
…何となく足元がふらふらしているように見えたが、志水は普段からこうなので心配せずともいいだろう。

「先輩、朝早くから突然すみませんでした。眠いですか?」
「眠くないよ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

心配するところが何とも彼らしくて、香穂子は笑いながら礼を言った。
志水も柔らかな笑顔を浮かべ、おもむろに香穂子の左手を握ってベンチに歩き出す。
マイペースなのが志水桂一という少年なので、香穂子はいちいち驚きも抵抗もしない。慣れたものだ。
志水はベンチにすとんと座り、香穂子が隣に座ったのを見届けると手を離した。
置いていた自分のカバンを探り始める。香穂子は何の説明も受けないまま待つばかりで。
志水はやがて数枚の紙を取り出した。

「先輩、今日はクリスマスイブです」
「そうだね、おめでとう」
「…?めでたいのかは分かりませんが、この日に先輩とこうして会えたのは、とても嬉しいです。でも僕はイブじゃなくても、先輩に会えた日はいつも嬉しいです」

志水はさらりと、聞いてて照れてしまうような事を言う。例に漏れず、今も頬を染めた香穂子をぼんやりと眺めているだけで。

「…ありがとう、志水くん。私もだよ」
「そうですか。それで本題なんですけど」
「あ…はいはい」

ほんのり良い雰囲気になったかと思えば、さらっと流されて香穂子はがくりと肩を落とした。そんな香穂子に気付かず、志水は数枚の紙を香穂子に差し出す。
それを受け取ると、それは既に音符が書き込まれている五線紙だった。

「これは…?」
「間に合わないかも…って思ってたんですけど、間に合いました。焦るといい曲は書けないし…でも今日に間に合わせたくて」
「…てことは、志水くんが書いた曲なの?」
「そうです。先輩にプレゼントしたくて。クリスマスプレゼントです」

香穂子は言葉をなくした。…まさか、プレゼントが貰えるなんて考えてもいなかったのだ。
貰いたくなかった訳ではもちろんないが、音楽一筋な志水はきっとクリスマスなど興味がないだろうと勝手に思っていた。
しかもこれ以上ないほどに極上のプレゼントだ。
香穂子はしばらく呆けたあとに、心からの喜びのまま満面の笑みを見せた。

「ありがとう!とても嬉しいよ!すごく嬉しい!」
「……ありがとうございます。そんなに喜んでもらえるなんて、思わなかったです」

香穂子のあまりの喜びように目を丸くした志水も、つられたように笑顔になった。

「先輩のことを考えてたら浮かんだ音楽を、形にしたんです。だからその曲は先輩のなんです。とても清らかな曲になりました」
「清らか…なんて恥ずかしいな…」

清らかなんて言われたことがない。くすぐったくて、香穂子は頬を掻いた。
志水は穏やかにそんな香穂子を見つめながら話を続ける。

「本当は…ちょっと緊張してました。喜んでもらえなかったらどうしようって。でも良かったです」
「嬉しいに決まってるよ!ホントにありがとう」
「でも良くないです」
「何が!?」

良かったやら良くないやら、彼と会話するのは大変だ。ツッコミスキルが磨かれる。
志水はむう…と気難しげに眉を寄せた。

「チェロを忘れました。すぐにその曲を聴いてもらおうと思ってたのに…残念です」
「じゃあまた今度にしよう。次に会う時の楽しみが増えるでしょ?」
「なるほど。そうですね。先輩、次はいつ会えますか?なるべく早く会いたいです」

早く会いたいと恋人に言われれば、受験生の身であろうと多少無理をしたくなる。
バッグからスケジュール帳を取り出し都合の良い日を探していると、唐突に志水があっ、と声をあげた。

「どうしたの?」
「残念なお知らせです、先輩」
「なに?冬休みは都合悪い?」

つい昨日から学院は冬休みに入ったばかりだ。受験生である以上頻繁には会えないが、それでも時間を作って志水と会うつもりだったのだが。
しかし志水は、普段より数倍とろんとした目を香穂子に向けた。

「眠いです…。耐えられません」
「なんですってー!?」
「昨日の夜…曲作りに没頭してたら…いつの間にか朝で…寝て、なくて」

ごしごしと瞼を擦る仕草は何とも愛らしいが、せっかくイブのこの日に朝から会えたというのに、寝られては困る。
だが志水が無理をしたのは香穂子の為で…ならば休ませてあげるのが先輩としての優しさだろうか。
香穂子は苦笑しながらも志水のふわふわな金髪をぽす、と撫でた。

「それじゃ今日は帰ろっか。また後日、ゆっくり会おう?」
「…いやです。困りました」
「何が?」
「眠くて…でも、先輩と一緒に居たいです。先輩と離れたくないです」

今すぐにでも夢の世界へ旅立てそうな様子なのに、志水は必死に抗っていた。
寝たいなら屋上だろうと校門だろうと眠りこける志水を知っているので、睡魔と戦ってくれている姿に思わずときめいてしまって。

「…じゃあ、家来る?私の部屋でゆっくり寝て、目が覚めたら遊びに行こうよ」
「先輩の…家…。ご両親…菓子折り…」
「要らないから!気遣わないでいいよ!」
「…じゃあ、行きます。先輩のお部屋」

志水はゆっくりと立ち上がった。朦朧としているのかふらふらしている。
その肩を支えて、ふと志水の顔が更に遠くなっていることに気付いた。また背が伸びたらしい。
いつの間に、こんなに大人びたんだろう。天使のような可愛らしい後輩は、今やすっかり成長した恋人で。

「先輩、大丈夫です…。お部屋に入っても、何もしません」
「うん…心配してないよ」

とことんマイペースなのは変わらないが。
だがそんなところが大好きなんだと、香穂子はそっと笑みを零した。
部屋についたら彼に贈ろう。用意していたクリスマスプレゼント…彼専用のアイマスクを。




fin.



志水をがっつり書いたの初めてかも。偽物でスイマセン!

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