唐突に書きたくなったので書いてみた!
土岐×かなで…というか、土岐のモノローグ。
土岐への愛が止まりません。
「…ほな、おやすみ」
たった30分の通話時間。だがそれも現在が深夜0時過ぎだと示す時計と、電話の相手が明日も朝から学校だという事実を知れば仕方ないことだろう。
秋は夜が長いというが、土岐はいつにも増してそれを実感していた。
秋は好きだ。体の弱い自分は夏が大嫌いで、その地獄を乗り越えた先に待つ涼しい季節は何だかちょっとしたご褒美みたいに思えてくる。
まあ、暑さに耐えるばかりで他には何も頑張ってはいないのだからご褒美というのは自分を甘やかし過ぎていると自覚はしているが。
自室の窓から吹く風は心地良く、薄紫の髪を揺らす。常に髪先を纏めている紐は、もうベッドに潜り込まなければならない時間である為に外していて。
秋は夜が長い。…だから、夜が重い。
朝は嫌いな筈なのに、淀む暗闇に細く輝く三日月を見ていると、どうしようもなく太陽が恋しくなるのだ。
夜だけではない。昼間もふとした時には太陽を見上げ、その目映さに目を奪われる。
まるで病気のようなこの症状は、つい先日発症した。詳しく言えば今年の夏辺りから。
つまりは会いたいのだ。会いたくて会いたくてたまらない。
太陽の如く輝き続ける、自分には眩し過ぎる少女に。
「…遠距離恋愛なんて、するモンちゃうわ」
先程まで自らの鼓膜を震わせていた愛しい声の主は、もう眠りについてしまっただろうか。
彼女は音楽を除けば何よりも睡眠を愛する主義である。きっと寝ているだろう。
明日も朝から練習に励むと言っていた。…ああ、あの穏やかで暖かい音を、今すぐ聴けたなら。
「重いわ…俺。気持ち悪」
すっかり彼女に酔わされている己に苦く笑い、土岐はサイドテーブルに眼鏡を置くとベッドに横たわった。…窓を閉め忘れたが、もう起き上がる気にはなれない。
「(明日は…朝から数学やな。放課後には部活にでも顔出そか。たまには後輩も労ったろ)」
なんてことない日常。明日もきっと朝から幼なじみと顔を合わせ、見慣れた教師達の授業を聞き流し、ヴァイオリンを奏でて、寝て。
…これが普通だ。そう、今年の夏までは、そんな平凡な日常に不満などなかったのに。
だから、恋とは厄介なのだ。一度味わうと二度と手放せない麻薬のよう。
「…あかん。限界や」
土岐は跳ね起きた。再び眼鏡を着け、一番近くにあった制服に着替えるとキーケースだけを握り締めて部屋を飛び出した。
自分が神戸で適当に毎日を過ごす間、彼女は遠い横浜で沢山の笑顔を周りにばらまいているのだ。
あの華やかな音で観衆を魅了し、多少頼りない人柄で男を惹き付け、親しみやすい笑顔で友達とはしゃぎ、毎日楽しく過ごしているに違いない。…土岐のいない日常でも満足しているのだろう。
あの星奏の軟派な元副部長にでもちょっかいを出されていたならと考えると、嫉妬に全身が燃えたぎるようで。
俺、こんなキャラちゃうっちゅうねん、とぼやいた所で後戻りは出来ない。たとえ時を遡れたとしても、きっと土岐は彼女に恋をするだろう。
残念ながら彼女とは違い、土岐は彼女の居ない日常では全く満たされていないのだから。
突然、目の前に姿を現したなら、どんな反応をするだろうか。…というより自分が何をしてしまうかが不安である。
思っていたよりずっと依存体質で寂しがり屋な土岐蓬生は、きっと目が合った瞬間に小柄な体を腕に閉じ込めてしまいそうで。
「…末期やな」
だがこんな病に倒れるのも悪くない。
弧を描く口元が次に開いたのは翌朝、菩提樹寮の前。
愛しい少女の名を囁く、その時である。
fin.
土岐→→→→←かなで、くらいが大好きです。
土岐さんは恋に溺れて依存しまくればいい!
ちなみに翌朝、土岐の無断欠席にやれやれと溜息を吐く千秋は私がもらう(黙れば?)
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