書いてしまった!
コルダ3火積夢です。フライングなのでキャラ捏造だと思われます。
マンガの火積があまりに素敵すぎた。
「ほらっ」
「…………」
「ほーら。ほら!」
「……だから、」
「ほ~~~~ら!」
「………ハァ」
真っ白な毛を誇る子猫が、火積の目の前で様々なポーズをとる。
短い両手で頭を抱えたり、小首を傾げたり、しっぽをふにゃふにゃと揺らしたり。
もちろん猫がそんな可愛いサービスを積極的にしてくれるはずはなく、火積の隣にいる少女が半ば無理やりに猫を動かしているのだ。
だが猫も彼女に懐いているのか、不満げに鳴くこともなく身を委ねていて。
そんな猫と一人楽しそうな彼女に、思わず溜め息をついてしまった火積はすぐにしまったと口を閉じる。
だが、時、既に遅し。
「…もう!どうしてそう、火積くんは仏頂面なのかなあっ!」
「……悪い…」
「こーんなに可愛い子猫ちゃんがこーんなに可愛いポーズをしてるのに、表情ひとつ変えないなんてさ!」
「…すまねぇ…」
十分前、冬にしてはぽかぽか陽気の休日を楽しもうと、火積は恋人である彼女とこの公園に来ていた。
飲み物を買いに行くと自販機まで行ってしまった少女の帰りを待つ間、火積の目に映ったのは白い子猫で。
野良にしては毛並みも整っている、おそらくどこかの飼い猫だろう。気ままに散歩中か、はたまた脱走中か。
どちらにしろその可愛らしい動物は火積の興味を惹いた。…動物は嫌いではない。
近寄ろうとベンチから立ち上がったが、ただそれだけで子猫はひらりと繁みに逃げてしまった。
日頃から小動物だけでなく人間からも距離を置かれることの多い火積だ、少し傷ついて猫に伸ばした手を引っ込めるのを忘れたが、そんな動揺が顔に出ることはない。
なんてことをしている内に少女が二人分の飲み物を買って帰って来たので、再びベンチに落ち着きのんびりしていたところ。
その子猫が少女の膝に飛び乗ってきたかと思えば、そのままくつろぎ始めたのだ。
少女の無意識に放つ穏やかで暖かい雰囲気に懐いたらしい。火積も彼女のそういった所に惹かれているのだから、子猫の気持ちはよく分かる。
顔を撫でたり喉を慣らしたりと可愛らしい仕草を見せる子猫にすっかり興奮した少女に対して、火積はただ黙ったまま子猫を見つめる。
顔にはやはり出ていないが、心の中ではそれはもう抱き上げたくて撫でたくて仕方がないのだが。
そんなことをしてしまえば、子猫はきっと逃げてしまう。自分は誰からも怖れられる存在だと分かっている。
だがそんな火積の諦めを知るよしもない少女は「こんなに可愛い子猫ちゃんを前に笑わないなんて許せない!」と突然怒り出し、面食らう火積を無視して子猫の可愛いポーズを見せ始めたのだ。
「もう…信じられないよ。火積くんってばほんとに何とも思わないの?こんなに可愛いのに」
「いや……俺は、」
「可愛いなぁ…可愛いなぁもう…」
火積の話を聞く気がないようで、可愛くない訳ではないと言おうとした火積は仕方なく口を噤んだ。
思っていることを声に出さないから周囲に誤解されるのだと分かってはいるが、どうも考えを伝えるのが苦手なのだ。
それに。
子猫にメロメロになっている少女の柔らかな笑みがあまりに愛しい。その笑みを、自分がわざわざ話しかけることによって消したくはない。
子猫が寝転べば、寝転がれば、一鳴きすれば、その度に幸せそうに微笑む少女が、とても…。
「可愛い、な」
「やっと分かった?すっごく可愛いよね!子猫ちゃーん、火積くんの方も見てあげて?」
「いや、そうじゃなくて………」
「あ、写真撮ろう!今日デジカメ持ってきてるから!」
「………ああ、撮ってやる」
またしても誤解されてしまったが、まあいい。改めて子猫じゃなくお前が可愛いのだと、火積に言えるはずがない。
カバンの中をごそごそと漁り始めた少女の膝が揺れるのか、子猫は迷惑そうに鳴いて火積の膝に移ってきた。
「……お前、」
「にゃう」
「……変わってるな、お前も…」
自分などに近付いてくるなんて、変わり者以外の何者でもない。
その愛らしい変わり者の頭をくすぐるように撫でてやると、子猫は気持ちよさそうに目を閉じる。
瞬間、耳に届いたシャッター音に火積は音速の速さで隣を見た。
「火積くんと子猫ちゃんの戯れショット!いただきました!」
「……消せ」
「部長に見せなきゃね」
「……やめてくれ…」
もう一人の愛らしい変わり者は、火積を見て楽しそうに笑った。
そんな風に笑われてしまえば、火積も眉間の皺を消すしか出来なくなってしまうのだ。
完
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