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土岐夢です。名前変換無しで、ゲーム主人公設定。
甘い…かな…?









陰る事を知らない太陽がじりじりと肌を焦がすのを不快に思い、土岐は眉を寄せる。
その瞬間にヴァイオリンの音が乱れ、隣で弾いていた東金が演奏中だというのに徐に楽器を下ろした。
溜め息を吐く東金の様子に土岐一人で演奏を続ける訳にもいかず、また東金の要望通りに演奏出来なかった自分に非があるのも重々承知。
土岐は申し訳なさに胸を重くしながら同じく楽器を下ろした。

「千秋、」
「今日は特に暑い。それにぶっ通しで練習しちまったしな。そろそろ休憩にするか」
「…堪忍」
「気にするな。芹沢、蓬生に冷たい水でも買って来てやれ」

暑さにやられた、というのもあるが体調の崩れやすい土岐はやはりスタミナも不足しがちだ。
東金はそんな土岐に気を遣い休憩を口にしたのだろうが、本人は再び楽器を構えソロ部門決勝の課題曲を奏で始めた辺り、まだ体力に余裕があるらしい。
…足を引っ張っている。だが無理をして演奏を続けた所で、さっきのようにミスを出してしまうに違いない。
ここは東金の優しさに甘え休ませてもらおうと、土岐は楽器を片付け近くの木陰へと移動した。
疲れを自覚した途端に足元がふらつき始め、目に映る全ての光景が薄く陰ったように見える。
これは思っていた以上に暑さにやられていたようだと、弾む息を整えながら草むらに腰を下ろした。
東金の澄んだ、それでいて甘い音色が耳に触れる。より聴こえるよう、土岐は視覚を封じた。
…思えば、東金と練習を始めてから二時間は経っている。
昼食も東金や芹沢、神南の部員達と同じだった上、午前中には何故か至誠館の部長と音を合わせたりなんかして。

――今日は、他人と居すぎた。

楽しくない訳ではない。東金や八木沢らが嫌いな訳でもない。ただ、誰かと時間を共有するのが酷く疲れるだけで。
普段なら誰かと過ごした後は五分でも十分でも一人で静かに休み充電する所だが、今日は間髪なく誰かと居た気がする。
ああ、だからこんなに疲れているのだろうか。土岐は自身のヤワな体力にふっと自嘲を零した。
東金は未だヴァイオリンを奏でている。…ふと彼が羨ましくなった。
他人と居ても苦痛にならない気分とはどんなものなんだろうか。むしろ東金は他人を寄せ付けてしまうタイプだ。土岐にはとても真似出来そうもない。

「副部長、水です」
「ん…ありがとうね」

ふと芹沢の声が近くで聞こえて目を開く。
芹沢はすぐ側に立ってペットボトルを差し出していた。それを受け取りながら、こめかみが鈍く痛む事に軽く息を吐く。
自分の領域に他人が入り込んでいる事への異物感が、土岐の体を苛む。
頭痛も鳥肌も嘔吐感も目眩も、全てが精神的苦痛からきているのだろう。…眠ってしまいたい。誰も居ない暗がりで横になってしまいたい。
涼しさを与えてくれる安らかな夜が、恋しい。

「…副部長?顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」

芹沢が不安げに顔を覗き込んでくる。心配をしてくれているのだと分かってはいても、正直早くどこかに消えて欲しい。
誰かが自分の隣に居る。自分に話しかけている。自分を覗き込んでいる。…耐えられない。

「平気やから、あんたは東金にも水渡してきたらええよ」
「ですが…」
「俺はほんまに平気やって」

つい乱暴に吐き捨ててしまい、すぐに大人気ない自分に嫌悪感が込み上げる。だがすぐに謝れる程頭は冷えておらず、そんな余裕もなくて。
とにかく、今すぐひとりになりたいのだ。

「芹沢!水渡したらさっさとこっち来い」
「東金部長…しかし…」
「この俺がさっさと来いと言ってるんだが?」
「…分かりました」

渋々ながら芹沢が東金の元へと駆けて行く。遠くなる背中にほっと安堵の息を吐いた。
他人の気配が周りから消える。相変わらず東金のヴァイオリンは聴こえるし、蝉の鳴き声も騒がしいけれど。
それでも今、土岐と繋がっているものも繋がろうとしてくるものも何ひとつない。とても清々しい気持ちだ。
額に冷たいペットボトルを当てながら、いつしか土岐は浅い眠りに落ちていた。






「蓬生さん」

耳元で朗らかな声が聞こえ、ふわふわと夢と現実の狭間に漂っていた土岐は反射的に目を開いた。

「わっ。すぐ起きた」
「…なんや、びっくりした」

すぐに目を覚ますとは思っていなかったのか、目と鼻の先にあった少女が目を丸くしながら離れた。
彼女の柔らかな髪先がふと頬を掠め、ほのかにシャンプーの香りか何かが土岐の鼻をくすぐる。
たったそれだけのことで、心臓が過剰反応した。
今までそれなりに交際してきた女子達には一度たりとも弾まなかった胸が、どうして今だけ。…正確にはどうして、彼女にだけ。

「大丈夫ですか?東金さんから、具合が悪いみたいだから様子を見て来いって言われたんですけど…」
「千秋に言われたから?それだけ?」
「へ?」
「あんたは心配してくれてへんの?」

不思議なものだ。さっきまであれだけ他人と時間を共有する事に辟易していたのに、今は少しでも彼女の声を聞いていたいと思ってしまう。
もっと話して欲しい、もっと見て欲しい、もっと傍に来て欲しい。
こんなに欲深な人間ではなかった筈なのに、彼女の事となると際限なく貪欲になってしまって。
少女は目をぱちくりと瞬かせたあと、花開くように笑った。

「もちろん心配ですよ。蓬生さん、すごく静かに寝てるから最初は寝てないのかと思ってたけど」
「なんや、俺はイビキかきながら寝てそうやとか思ってたん?傷つくわぁ」
「ち、違いますよ!そうじゃなくてっ」

ほんの冗談にも真剣に慌てる少女の素直さが、愛らしくもあり眩しくもある。
見たまま聞いたまま感じたままを表情に出す彼女は、一緒に居てとても心地良い。
ぺちゃくちゃと余計なお喋りもなく、だからといって苦痛になるような静寂もなくて。
まるで彼女は自分と共に居る為に存在しているのではないのかと、馬鹿な事を考えるくらいに土岐は彼女を特別に思っているのだ。
彼女が土岐をどう思っているのかは分からないし、頑張り屋な少女を特別に思う男も土岐だけではないのだが。
彼女の柔らかそうな薄い色素の髪をそっと撫でた。予想に違わず柔らかい。

「怒ってへんよ。あんたをからかうんは楽しいからついつい…。堪忍な」
「怒ってないならいいです。からかうと楽しいっていうのもよく言われるから慣れました」
「…まあ、あんたがそれでええならええんやけど」

やはりどこか抜けている彼女は、未だにこにこと微笑んでいる。可愛いと口にしそうだったが、それは飲み込んだ。本当に心から可愛いと思ったから、音にすれば途端に嘘っぽくなりそうで。
今、彼女という存在が自らの領域に入っているのに、感じるのは異物感ではなく幸福。
簡潔に言えば彼女を気に入っていて、だがそれを自覚したくなくて。
彼女に惹かれれば惹かれるほど自身の脆さをさらけ出している事に気付いている土岐が、今以上情けない姿を見せたくないと思うのは当然の帰結だ。

「普通に話せるみたいですし、蓬生さん、元気ですね」
「病人扱いは嫌やわ。ちょっと疲れたから休んどっただけやねんで」
「ひと安心です。それじゃ東金さんに伝えて来ますね」
「………待って」

立ち上がる少女の細い腕に縋るように掴んで引き留めた。
不思議そうに首を傾げる彼女に、傍に居てもらえる理由を考えに考え抜いて、そして。

「…行かん、といて」
「蓬生さん…」
「あとちょっとでええから、俺の隣におって」

無様にも、上手い理由など何一つ浮かばなかった。何故彼女と向き合っていると余裕がなくなるのか。
少女は少し面食らったあと、静かに隣に座り直した。
そして彼女を引き留める際に上体を起こしていた土岐の頭をぽんと、子供をあやすように叩いて。

「はい。居ます」
「…あかんね、なんや、思うてた以上に弱っとるみたいや。甘えるなんて恥ずかしいわ」
「そうですか?いつも通りですよ。蓬生さんは甘えん坊だもん」
「…そう、か?」

酷く驚いて彼女に尋ね直すも、相変わらず土岐の頭をなでなでしている少女は頷き返すのみ。

「…甘えん坊やなんて言われたん初めてやわ」
「あれ?じゃあ私の勘違いかなあ」
「いや、あんたが言うならそうなんやろ。あんたとおる時が一番、…自然体やから」

遠回しに特別な存在なのだと主張してみた土岐の気持ちは勿論届かず、少女はそうですかとふわふわ笑っただけだった。







fin.




ただ土岐が甘えん坊だと主張したかっただけです。
東金は、ひなちゃんに頭を撫でられてる土岐を見て安心してたらいい。「あの蓬生が心開きかけてやがる!良かった良かった」的な。あれ…お父さんポジション…?(笑)

まあこんな光景を見たらすぐさま大地さんは邪魔しに来るでしょうがね!
ひなちゃん書いたの初めてか?ひなちゃんは天然さんで、さらっと悪意なく失礼なこと言いそうな感じ(笑)
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