突発的に書いた吉羅夢!
固定ヒロイン設定のつもりで書きましたが、どっちでもいい感じです。
とにかくベタベタに甘くしてみたかっただけです。クールな吉羅はどこへ行った!(笑)
「愛している」と意を込めて
「月がきれいですね」
左隣に立つ彼女の、感嘆したような囁きが耳に届く。
その声は私の鼓膜を震わせ、じんわりと熱い痺れが体を犯し、やがて鳩尾辺りを甘く締め付ける。
彼女の声が好きだ。時に儚く、時に凛と響くその声は、私の心を鷲掴んで離さない。
ベランダで二人並び、夜空を見上げるひと時。常より緩やかな時の流れる、二人の世界。
「あ、何の星でしょう?まわりに比べて、とても明るい…」
ふと、彼女が夜空の一ヶ所を指差して思案気に呟いた。
彼女の人差し指が示す先ではなく、その指先をそっと眺める。
普段ヴィオラを奏でる為の指は傷一つなく、滑らかな肌。すぐさま触れて口付けてしまいたくなる。
彼女の指が好きだ。その指が奏でる清らかで麗しい音色は、彼女の存在そのものだからだ。
彼女の音色に魅了され、耳から離れなくなり――だが私はその優しい束縛を敢えて受け入れよう。
君が、どうしようもなく愛しいから。
「…理事長?あの、」
私が彼女の言葉に何一つ返事をしない事を訝しんだのだろう、彼女が私を見上げた。
ふわりと揺れる髪。何度も撫で、何度も指を滑らせた彼女の髪。
彼女の髪が好きだ。いつも顔を埋めれば清潔感のある香りが漂って、ついそのまま何度も唇を寄せてしまう。
今もまた、彼女が空から私へと顔を向けただけで仄かに漂う香りに、私は彼女と目を合わせる前にその前髪に口付けた。
「えっ、わ、」
「つい、甘い香りに誘われてね」
「シ、シャンプーでしょうか」
慌てて身を捩る、その細い体を腕に閉じ込めた。あどけなく蕾を開くささやかな花を、手折って独り占めするように。
「理事、長っ」
艶やかな前髪から額、眉間を降りて鼻先、それから頬へと。
触れるか触れないかの距離で啄んでいくと、だんだんテンポを上げていく私の脈。左手を彼女の白い首筋に当てれば、同じテンポの鼓動が指を打つ。
お互いにお互いを意識して、緊張して、焦がれている。――同じ感情を共有する事が、これ程までに幸せな事だったとは。
「り、理事長っ、」
「嫌かね?」
「そうじゃ、なくて…!」
私の胸元に手を突いて押しやる彼女の抵抗など些細なもので、朱の差す目の前の可愛らしい頬にもう一度口付ける。
そのまま、こめかみへと移動し、耳朶にやんわり歯を立てた途端、彼女の膝がかくん、と抜けた。
反射的に彼女の腰に腕を回し抱き寄せ、内心やり過ぎたかと反省しながらその身を支える。
「すまない、大丈夫かね?」
「大丈夫じゃないです…ッ!」
「あまりに君が愛おしいからね。つい歯止めが利かなくなってしまった」
「しりませんっ」
機嫌を損ねたのか、彼女はしっかりと自力でバランスを立て直すと、私の体を押しやり距離を取った。
つんと私から顔を背けて室内へと向かうその背中を抱き締めたいと感じる自分に、思わず苦笑してしまう。
本当に、彼女に関してはどこまでも貪欲になってしまうらしいな、私は。
「月が綺麗だね」
室内へ続く窓を開く彼女の背中にそう投げかける。
彼女は拗ねたような顔で振り返り、だがすぐに口元を華やかに綻ばせた。
「…はい。本当に」
fin.
「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した夏目漱石の逸話が好きで、なんか前にも似たような話書いたような…。ネタがかぶってたらすみません(笑)
吉羅さんは「自重」を覚えればいいと思いました。私もだが!
一時間くらいでファサッと書いたものなので誤字脱字があったらすみません…!
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