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◆騎士×敵国の王女

相手→土浦梁太郎








国に忠誠を誓った騎士が、その国の王族にも跪くのは当たり前だ。
それが例え、民には貧困を強要し、自分たちばかりが豪遊を繰り広げるような最低の王族だろうと。

おれは騎士だ。
一度国に誓った忠誠を、簡単に捨てやしない。




――そう、思っていた。







我が国と表面的には同盟を結んでいながら、しかし極めて仲は悪く対立している隣国の王女が、今夜の舞踏会に参加すると聞いた。

「梁太郎、アタシはあなたを一番信頼しているのよ」
「……光栄です」

王妃の赤いマニキュアが毒々しい爪に、頬を撫でられ背筋が粟立つ。いつ会っても気味悪ぃほどの厚化粧にキツい香水だ。

「実はあの忌々しい国の王女が、何やら王宮付近を嗅ぎ回っているようなの。いちいちこっちの政治に口を出してきて煩いったら!あの女!」
「………」
「あなたは今宵一晩、あの女のエスコートをしながら見張りなさいな」
「了解しました」

この国の腐った政治は気に食わねえ。
民を顧みない王族にも愛想はとっくに尽きてる。
だが、生まれた国に誓った忠誠は裏切りたくない。
おれは、王妃の命令に跪いて、騎士服の胸元に着いた国旗のエンブレムに手を当てた。











エスコートを命じられた敵国の王女は、淑やかで大人しく、あからさまに敵意を剥き出しにした我が国の王を前にしても柔和な笑みを湛えていた。
既に六十を超えた国王よりもよっぽど、王族としての振る舞いの身についた王女は俺より僅かに年下だ。

「土浦殿、あなたが今宵のわたしのエスコート役だとか」

王女が艶やかな黒髪を揺らして微笑んだ。微かに漂う香水は慎ましく、高貴さを引き立てる。
ブルーのドレスの裾をつまみ、頭をやや下げて挨拶をしてくる王女は優雅なもんで。
――綺麗、ってのはこういう女を言うんだろう。
俺も騎士として眼前に膝を着き、王女の手の甲に額を触れ合わせた。







パーティーも中盤となり、我が国の名家の主や王族の端くれなんかが華麗に着飾る大広間も人間が入り乱れ始めた。
聞こえてくる会話はくだらねえ縁談やら取引ばっかりで、おれはつい溜息を吐く。
ふと隣で王女が愉快そうにおれを見上げていて、おれはすぐに口元を覆った。

「っ、失礼しました」
「いいえ。…風に当たりたいのですけれど、あのテラスには入れるのかしら?」

王女の指差した先には無人のテラス。こんな寒空の下、誰も寄りつかねえ場所だ。
王女はシンプルなドレスに薄手のショールのみ。…風邪ひくんじゃねえか?

「王女、あのテラスには入れますがその恰好では、」
「ほんの一分で構わないの」

王女は緩やかに笑って、だが変に逆らえねえ雰囲気を醸し出した。
仕方ない、機嫌損ねるのも問題だしな。連れてくか。






大広間からは目につきにくいテラスに入り、広間へと続くガラス戸を閉めた途端。
王女はおもむろにドレスの裾を膝上まで破り取った。
びりびりと無残に千切れる青い布。下から出て来たのは白くすらりとした脚と……ホルダーに入った小型銃。
呆気にとられて言葉を無くしたおれが慌てて剣の柄に手をやった時には、王女が不敵な笑みを浮かべて銃口をおれに突きつけた。
……なんだってんだ。何が起きてんだ?

「命が惜しいなら私を王の傍まで案内して。あなたが隣に居たら、王も油断して私を近付けるでしょ」
「は………?」
「王の命を奪い、この国の民を圧政から解放します。心配せずとも王が倒れた後は私の国がこの国を吸収して統治するはずよ」
「………」

さっきまでとは口調も話すスピードもまるで違う。目つきは鋭く、俺から一瞬も逸らされない。
俺は銃口を突きつけられながら、その強い眼差しに釘付けになった。

「…王を撃った瞬間に、おまえも守衛に殺されるぞ」
「王を始末出来た後なら構わない」
「…国からの命令か?こんな命令を王女が請け負うモンなのか?」
「実は、何もかも独断なの。この国の民の貧しさは、もう…見てられない」

王女の表情が辛そうに歪んだ。悲しみの滲んだ顔ですら、おれは綺麗だと思った。
いや、違うな。高い志を持つその精神が、この無謀すぎる女を綺麗に見せてるのか。

「…情けねえ」
「土浦殿?」
「他国の王家ですら危ぶむ民の暮らしに、見て見ぬフリするあいつらも」

大広間で豪勢な食事をたらふく食ってる王とその妻を一瞥して、おれは遂に忠誠を誓うその相手に軽蔑を抱いた。
だが、軽蔑したのはそいつらだけにじゃなくて。

「……国を想う気持ちに逃げてた、おれも」
「土浦殿…」

おれ一人の、ただの騎士一人の力なんかじゃ何も出来ねえと諦めて、その無力さを愛国心で隠して。
情けねえ。…おれは、なんて情けねえ男なんだ。

「後悔するだけで終わるなら、本当に情けない男ね。結局あなたはどうするの?土浦梁太郎」

王女の真剣な声が、ゆっくりと外された銃口が、おれの心を揺らした。

今が、この国への忠誠を、殺す時なのかもな。

おれは、ズタズタのドレスを寒風にそよがせながらも凛と立つ女に、跪いた。

「主を変える恥辱を堪えて、おれはおまえに忠誠を誓おう」
「そう。良い判断ね」

王女は微笑みと共に手の甲を差し出した。銃を握るその手に、おれは唇を寄せる。
王を撃つこの手を、無傷なまま王宮から逃がしてみせる。それがこいつに仕える騎士としての初任務ってやつだ。

「そろそろ行きましょう、土浦殿。いや……行くわよ、梁太郎」
「おまえの望みのままに」








fin.




ただ騎士コスな土浦ってカッコいいだろうなと思っただけです。まあ土浦は何してたってカッコいいんだけど!(笑)

今作はクールヒロインでしたー。こういうヒロイン書くの好きです(^^)
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