◆悪魔×天使
お相手→石田三成
救いの手を必要としている人間はいないかと、わたしは白い羽を羽ばたかせ街の上空をパトロールしていた。
ふとそこで脳にビビビッと電流めいたものが走る。それが近くに迷える子羊がいるという知らせなのだ。
どこにいるのかと首を左右に回して探すと、黄緑色の髪を持つ少年がとぼとぼと肩を落として歩いている。あの子ね…!
わたしはその男の子のすぐ隣に着地した。ちなみに天使は人間からは見えない。
「おれなんか…チェロを続けたって、上手くなりっこないんだ…」
少年からは深い悲しみと一縷の悔しさが伝わってくる。どうやらチェロに対して負の感情が湧いているみたいだ。
――迷わないで。
だってあなた、心の奥底ではまだ音楽に絶望しきっていないじゃない!
わたしは右手を、少年の額にかざした。
『それで本当にいいの?本当はまだチェロをやめたくないんでしょう?』
「おれなんか…。……でも、もうちょっと頑張ったら、冥加部長も認めてくれるのかな…」
天使は道に迷う子羊にポジティブエナジーを与え、諦めを子羊から消し、眩しい光へと導く役目がある。
少年にわたしの声は聞こえてないけど、わたしの送るエナジーに反応して、彼の表情に生気がやや戻った。
なのに。
『いや、貴様は見るからにチェロに向いていない。今すぐ止めろ』
少年を挟んでわたしの向かい側に降り立ち、黒い翼をそっとたたみながら少年に負のエナジーを注ぎ始めたのは、わたしの天敵……!
「ちょっと、悪魔!ジャマしないで下さい!」
「俺には三成という名がある」
赤茶の髪をさらりと払い、高圧的にわたしを見下ろした悪魔――三成は、毎回わたしがこうして子羊を導いていると現れるやつだ。
確かに、役目を果たしていると悪魔がやって来て子羊を間違った道に引きずり込もうとするのは普通のことなんだけど、悪魔も不定期なパトロールをしてるから、同じ悪魔と毎回会うなんてことはない。
のに、この三成とはほぼ毎回会っちゃって、子羊にネガティブエナジーを送って暗い人生に誘うのだ。迷惑な悪魔め!
三成に負けないよう、わたしも少年に更にポジティブエナジーを注ぎ込む。
『いいえ!何事も諦めなければ道は拓けるのです。チェロを続けてみなさい。チェロを愛してるんでしょう?』
「…誰かに迷惑をかけてしまっても、やっぱりおれ、チェロが好きだ」
『くだらぬ。チェロなどやめろ。貴様は己の面を見た事があるのか?チェロには向いていないぞ』
「……やっぱり駄目だ!おれ、今すぐチェロを捨てたくなってきた!」
ああー!!少年が今にもチェロを投げ捨てそうだ!
慌ててポジティブエナジーを送るけど、三成のネガティブエナジーが強すぎて太刀打ち出来ない。
こ、このままじゃ少年の道が閉ざされてしまう…!
その時、オレンジ色の髪を持つ少女が、チェロを投げかけた少年を制止して。
「待って!」
「え…っ、あなたは…?」
そのまま話し始めた二人に、少年の高まっていたネガティブエナジーが落ち着いていくのを感じる。もう安心ね。
わたしは少年から距離を取ると、勝ち誇って口角を上げる三成を鋭く睨み付けた。
「もう!毎回毎回ジャマしないで!」
「たまたま俺がパトロールをしていると貴様が毎回現れるのだよ。俺は悪くない」
「避けてよ!」
「何故俺が避けねばならぬのだ。しかし貴様の力は弱いな。よく天使が務まるものだ」
フン、と三成が嘲りながら鼻で笑う。腰辺りで黒い尻尾がゆらゆら動いた。
イライラが沸騰して、でもわたしの力が三成に劣るのは事実だから言い返せなくて、わたしは思いっきり三成の尻尾を掴んで引っ張ってやった。
「いッ…!何をする!」
「見てなさいよ!次はあんたに勝って迷える子羊を正なる道に導いてやるんだから!」
絶対に絶対に勝ってやる!わたしは鼻息を荒くしながらその場を後にした。
「……偶然で何度も会う筈が無いだろう。俺の気も知らずに…あの馬鹿が」
fin.
これはお題が難しかった…!悩みましたネタに。
七海が友情出演です(笑)
ちなみに七海とはコルダ3のキャラクターですよー。
今作は熱血で活発ヒロインでした!
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