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弓の鍛錬や、仲間のみんなと集まっての軍議。
天鳥船内を歩き回り、そこに乗る民衆や兵士の皆さんの様子を確認。
何か問題があれば即座に対応するし、慕ってくれる幼い子どもは喜んで抱き上げた。

忍人さんの厳しい指導を見守って、日向のみんなの賑やかな宴にちょっと参加して、道臣さんから食糧補給路の相談を受けて。




そんな、目の回るような忙しさも夜の訪れと共に終わりを迎える。
静かに夜空を飛び進む天鳥船の中央に位置する自室に戻った私は、一人になった空間に肩の力を抜いた。

「ふう……」

誰もが、近い将来に起きる橿原奪還決戦に不安を抱いている。兵士はそんな不安をかき消すように武器を磨くし、母親は子を抱きしめ眠りにつく。
不安、だよね。先の見えない未来は、私もとても不安だもの。
でも私はそんな不安を抱く人々を纏め、導く立場だから。

「…不安だとか疲れたなんて、言えないわ」

宿題をこなしたり、体育の授業でランニングしたりなんていう現代の生活とは比べ物にならない程の運動量。
何よりも現代で平和に暮らしていた頃とは、背負う重責が違う。それが精神を蝕み、更に体を疲弊させてるんだろう。

私はベッドに倒れ込んだ。地上よりも太陽に近い位置で干してくれているからか、布団は常にふかふかで私を癒やしてくれる。
柔らかく暖かな布団に左頬を預け、ただ何を考えるでもなく無心になる。
疲れているのに、頭が妙に冴えて眠くならない。早く寝なければ…。明日も早いのに。

無理やり瞼をぎゅっと閉じた私に、慎ましやかなノックの音が聞こえた。

「二ノ姫、夜分遅くにすみません」
「……リブ?」

リブの声だ。私は跳ね起き、急いでドアを開ける。
そこには左手に持つトレイにティーポットとカップを乗せて立っているリブが、苦笑気味に笑っていた。

「や、すみません」
「リブ…どうしたの?」
「ついさっき、姫がこちらにお戻りになるのを見まして。近頃、ずいぶんとご多忙の様子でしたし、温かいお茶でも、と」

空のカップと、ティーポットから微かに漂う甘い香り。わざわざ淹れに来てくれたんだと、私はリブの気遣いに自然と笑みを零した。

「ありがとう、リブ。ちょうど眠れなくて困っていたの」
「そうでしたか。体が疲れすぎるとかえって眠れなくなる時もありますからね」

優しく笑うリブ。…そういえば今日はこれがリブとの初めての会話だ。

リブを室内に招き入れて、テーブルに腰を下ろす。
私の傍らに立ったリブはトレイをテーブルに置き、お茶の用意をし始めた。
でもその手が急に止まり、私はリブを見上げる。
リブは私を真っすぐ見下ろしていて、何か言いたげな気配に首を傾げる。

「リブ?」
「…最近、こういった時間も持てなかったなと思いまして」
「そうね、リブと二人で話すのも久しぶりだわ」
「てっきり、二ノ姫は私などお忘れになってしまったのかと」

いつもの、少し困ったようなリブの笑顔がどこか寂しげに見えた。
確かに今日は……ううん、そういえば昨日もその前もリブとは話していなかったかも知れないけれど、忘れるなんて。

「そんなことないよ。忘れるわけがないでしょう」
「や、それならいいんですが」
「…本当に納得している?」
「ええ、割と。姫は嘘なんてつかないですから」

リブは私の言葉を軽く流すと、慣れた手つきでカップに琥珀色の液体を注ぎ、私の前に置く。
湯気を立てる温かいお茶に、私はカップを両手で包み込み温もりを楽しんだ。

「あったかい…」
「淹れたてですからねえ」
「香りもいいわ。美味しそう」
「そう誉められると…」

私の向かい側に座り、少し照れた様子で頭を掻くリブに、何だか微笑ましく感じて私は頬を緩ませる。
一口飲むと、温かい液体が胃まで流れ落ちるのが感じられて、ほのかな甘さが疲れた身に染み渡った。

「…美味しい」
「や、ありがとうございます」
「毎日リブのお茶を飲めるアシュヴィンは幸せね」
「姫も毎夜の日課にして下されば、私があなたにお会い出来る口実にもなるんですが」
「え?いいの?」
「姫が良いなら、ね」

常に穏やかさを湛えるリブの瞳が、薄く開いて私を捉える。真剣さを秘めた眼差しに、何故か胸が高鳴った。
つい咄嗟に言葉が出ず、妙な間を取り繕うために私はカップを口に運ぶ。
リブは黙ったまま私を見ていて、ごくりと動く喉の音がやけに大きく響いた気がした。
そんなに見られると…緊張しちゃって、無意識に目が右往左往してしまう。

「………や、困りました」
「リ、リブ?」
「私まで照れてきました。いやはや、姫は何とも愛らしいことで」
「そんなこと…っ」
「ねえ、二ノ姫」
「な、なに?」

普段の丁寧な口調を崩したリブが、僅かに顔を寄せてくる。
ティーポットから漂う甘い香りと相俟ってか、お茶に体が暖まったからか、顔に熱が集まって。
リブは口角をやや上げ、ほんの少しだけ意地悪な笑顔を浮かべた。

「姫は殿下以上にこなすべき仕事が多いようですが…」
「え、ええ…」
「たまには、姫に構って頂きたいと願っている男が居る事をお忘れなく」

すぐに「……なんてね」と柔らかく笑ったリブだけど、数秒前の台詞に翻弄されたままの私は、また逃げるようにカップに唇を寄せた。











fin.











遙か5やって一旦休憩ーってPSP置いたときに視界に入った遙か4愛蔵版のケース……。
その瞬間にこのネタが浮かびました。ほんとは風早で浮かんだんですが!
遠夜とサザキしかクリアしてないけど、いつか絶対全員クリアするから待ってて遙か4!!(笑)


で、今日仕事中に桜智のこと考えてたらカッターで手のひらを切り裂きました。軽率だ!

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何気なく、綺麗なオレンジ色に染まっていく夕焼け空を眺めながら歩く並木道。
ぼんやりしていたからか、隣に並んで歩くクラヴィス様に不意に話しかけられて、わたしはついポカーンとしてしまった。

「エトワール…何事かあったのか?」
「………えっ、なんですか?」
「先刻から溜息ばかりではないか」

ぼーっとしていた私の顔が面白かったのか、珍しく苦笑しながらわたしを見るクラヴィス様。
慌てて意識を夕焼け空から会話に戻して、わたしは取り繕うように乾いた笑い声を出した。

「あ、はは…。ちょっと…」
「…悩み事か?何か使命に関する事柄に問題でもあったのか」
「だ、大丈夫です!大したことじゃありませんから!」

眉を寄せて本気で心配し始めるクラヴィス様に、わたしは勢い良く首を横に振った。だって、本当の本当にくだらない悩みだもの。
いつもわたしを案じて支えてくれるクラヴィス様だけど、こんな悩み事なんかでムダな心配をかけたくないわ!
だけどクラヴィス様はわたしの強い否定に一層険しい顔をすると、足を止めてしまった。

「…お前の曇った顔を私に見せるな。何があったのだ?」
「ほ、本当に何も…!クラヴィス様のお耳に入れるようなお話じゃ!」
「………」
「あ、あの…」
「……私では力になれぬと、いう事か」

長い睫毛を震わせ、そっと伏せられた瞼。
滑らかな黒髪を揺らして俯いた横顔は無表情の中に微かな寂しさが見えて、わたしは不謹慎にもときめいた。
あのクラヴィス様が僅かでも感情を表に出すのが新鮮だから…かしら。じゃなくて、早く誤解を解かなきゃ!
わたしはすぐにクラヴィス様の顔を覗き込んだ。切れ長の瞳がゆるりとわたしを映す。

「違います、クラヴィス様!本当にくだらない悩み事で…」
「………」
「あの…欲しいものがあって、でもサイフと相談したら到底買えないもので、それでちょっと落ち込んでただけなんです」

素直に悩みを白状した。クラヴィス様に聞かせる内容じゃないけど、言わない方が逆にクラヴィス様に申し訳ない気がして。
クラヴィス様はわたしの悩みを聞くと一瞬の間を置いて、すぐに唇を不満げに引き締め、おもむろに今まで歩いて来た道を戻り始めた。
引きずっている上質のローブを踏まないよう気をつけながら、わたしもクラヴィス様の後をついて行く。
並木道の先には、今日一日わたしとクラヴィス様が楽しく過ごしたセレスティアがある。きっとこの時間帯はパルク・ディマンシュが綺麗なイルミネーションだろうな。

「クラヴィス様?」
「欲しい物があるならば、何故セレスティアを出る前に言わぬ?」

ちょっと苛立たしげな声音。セレスティアに戻って買ってくれる気なんだ…!
そう悟ってわたしはクラヴィス様の前に立ちはだかった。

「クラヴィス様!いいですいいです、大丈夫です!そう急いで買わなきゃならない物じゃないので!」
「だが、お前はそれが欲しくとも手に入らぬから…沈んでいたのではないのか」
「そうなんですけど、来週にはちゃんと買える予定なので!レイチェル様とお会いした時にお小遣いを頂ける手筈ですから」

クラヴィス様にわたしの物を買わせるわけにはいかないわ!断じて!
必死になって引き止めると、わたしのあまりの形相にクラヴィス様も足を止めてくれた。
な、何だか今日は変な顔ばかりしてる気がするわ…。

「…よいのか」
「はい。いいんです。ありがとうございます」
「……」

あんまり納得してないような顔だけど、何とかクラヴィス様は足を止めて再び宮殿へと続く方向に戻ってくれた。
ああ良かった…!まさかわたしの欲しいものがテレビゲームソフトなんて言えないもの!
ホッと胸をなで下ろして、クラヴィス様の隣に改めて並ぶ。ゲームソフトは来週、またセレスティアに行って買おうっと。
ふふ、来週が楽しみだわ!

「…ようやく、笑みを見せてくれたな」
「え?」

来週のことを思って自然と笑っていたわたしに、クラヴィス様が柔らかな笑みを向けた。
その微笑みがあまりに美しくて、わたしの方がつい息を呑んでしまって。

「……実は私も欲しい物があったのだ」
「そうなのですか?」
「だが今、手に入った」
「今?」
「とこしえに続く闇に輝く、目映い私の星…。お前の笑顔だ」

クラヴィス様の指先が頬に触れて、すぐに離れていった。
口角を上げて、細めた目で。クラヴィス様にしては本当に珍しく意地悪なお顔。

「お前に笑みを浮かべさせたのが私でなく、その欲しい物というのが悔しいが…な」











fin.





オチ?なにそれおいしいの?

「戦国無双3Zが今日発売なのに金欠だしPS3本体もないから買えないー!」という私の悲しみから生まれたネタでした(笑)

吉羅→譲→クラヴィスと相手が変遷しました。ちょうど見てたアラモード4の執事クラヴィス様があまりに素敵だったから…ついクラヴィスに…!

まあ私にはお小遣いくれるレイチェル的存在はいないんですがね…泣きたい。
◆貴族×平民

お相手→福地桜智








「もうー!!いい加減にして下さい!しつこい!うるさい!」
「あの…すまない…」

狭苦しいリンゴ畑に響き渡るはわたしの怒鳴り声。赤く色付くリンゴのたくさん入ったカゴを地面に乱暴に置いて、わたしは収穫中なのに背後をずっとついて来る一人の男を睨み付けた。

わたしが一人で切り盛りするリンゴ畑。その小さな畑のある村のある丘のある地帯のおよそ七倍が、この国の領地である。
その国を統治する政府の中の一人、高貴な生まれであるハズの男は、わたしの怒鳴り声にしょんぼりとうなだれた。
政府よりこの地帯を治めるべく派遣された貴族、福地桜智である。
彼が赴任してきてからまだ二週間。
どこぞの市場を視察中、リンゴを売っていたわたしを見て一目惚れしたらしく、それからというものこの畑に通ってくるのだ。
桜智さんの館からは近くないのに、毎日毎日馬を走らせて…ご苦労なことだ。馬が。

桜智さんは、わたしが勢い良く地面に置いたために中から零れ落ちたリンゴを拾い上げ、わざわざカゴに戻す。いかにも高級そうな服の裾で、リンゴについた土を拭いて。
リンゴは売り物だ。わたしはリンゴを売ることでしか生活できないし、そのリンゴが傷つくと売れないため、確かに大事に扱うべきなんだけど…。
一生懸命に土を拭っている桜智さん。ちらりと見ると、伏せた睫毛のなんて長いこと!
…礼を言うべきかしら。その…わたしが落としたリンゴなのに…服で拭かせるなんて。

「あ…、これを貰うよ…」

わたしがお礼を言うべきか悩んでいる内にリンゴは全てカゴに戻り、すらりと立ち上がった桜智さんがわたしに銅貨を差し出す。
見れば桜智さんが買うと言ったリンゴには、到底売り物にはならない傷が。
………もう!

「な、何よ。買い取ってくれたからって、礼なんか言わないわよ!それともリンゴ一つくらい大した値段じゃないっていうイヤミ!?」
「勿論違うよ…。キミの育てたリンゴになら…いくらでも払える…」
「あらあら、そんなにあなたの館にはお金が有り余ってるのかしら。わたしのような平民には別次元ね!」
「あ……その、…」

わたしのひねくれた物言いに、桜智さんは困惑しきって黙り込んだ。…またやっちゃった。いつもこうやって桜智さんを困らせちゃう。
本当は、もっとちゃんと優しくして、ちゃんと会話して、ちゃんと笑って欲しいのに。
天の邪鬼なわたしはいつも反抗的になって、今もまた後悔してるのに謝れない。
結局息を吐いて頭を冷やし、わたしは話題を変えることしか出来なくて。

「………何の用ですか。まさか昨日や一昨日やその前と同じ用件じゃないでしょうね」
「ご推察の通りだよ。昨日や一昨日やその前と同じく、キミに、その…私の妻になって欲しいと…」
「桜智さんは身分というものをご存知ないようですね。あなたは貴族、わたしは平民。従って結婚は不可能です」
「それでも私がキミを大好きな気持ちは偽れない」

無愛想に桜智さんの求婚を流したわたしを咎めることなく、いつもよりハキハキと言葉を継ぐ。
ぼーっとした目から一転、凛と意思を灯す瞳は文句なしにカッコよくて、わたしは何も言えずに口を噤むしかない。

「…キミが…好きだよ…。とても」
「でも、わたしはただのリンゴ売りで、」
「私は、キミだけが好きだ」
「…だからわたしはただのリンゴ売りだし、」
「キミの事が私は――」
「ああもう分かったから!」

わたしの方が正しいはず。なのに桜智さんはわたしの声が聞こえないのか聞いてないのか、同じ台詞を繰り返して。
あまりに直球だから、どんな顔をしたらいいのか分からなくて目を逸らす。桜智さんが小さく笑う声がした。

「わ、笑わないで」
「すまない…キミが愛らしくて」
「っっもう帰って!収穫のジャマです!」

本当はもうカゴいっぱいにリンゴを収穫出来たから、あとは帰るだけだ。桜智さんも毎日ここに通ってわたしの仕事ぶりを見ているんだから、カゴを一瞥したらウソだと分かったらしい。
でも敢えて何も言わずに桜智さんは頷いた。

「そうだね…私は失礼するよ。また明日に来ても構わないかな…」
「明日は来ないで」
「え…」
「明日は、リンゴを市に並べる日なの。桜智さんの館近くの市に。だから、つまり、たまにはわたしが会いに行ってあげるわ」

横柄なわたしの言い方に気分を害することなく、桜智さんは極めて晴れやかに笑った。この笑顔に弱いのよね…悔しいけど。

「ああ…キミはなんて心優しく可愛らしいんだろう…。明日は盛大な宴をもってキミを歓迎するよ」
「普通でいい!普通でいいから!」
「鶏…丸焼き…。食事後の甘味は隣町の和菓子職人を呼び寄せて…。贈り物は御上より賜った絹で仕立てさせれば…」
「(この金持ちが!)」











fin.




桜智で書くか東金で書くか悩んだ結果、桜智になりました。世界観がさっぱり分からない(笑)
ツンデレヒロインでしたー。


◆罪人×聖女

お相手→ニクス
※公式主人公








果てのなき闇。広々とした宇宙空間に点在する幾つもの惑星。そこに暮らす数え切れない程の命。
美しく瞬く星から、道端に転がる小石まで、この宇宙に存在する全てに恵みを与える女王の背負うものは、あまりに大きくて、ニクスにはただ傍にいつも寄り添い、その重圧と戦う彼女を支えるしか出来ない。

今もまた、三日三晩に渡る祈りの果てに、とある惑星を荒らした大災害を鎮めた女王が、その結果を見届けた直後に倒れたのを、介抱するしか出来ないのだ。




ベッドに横たわる彼女は、顔色も青く、やや痩せたように見える。彼女の力により聖地へと共にやって来たニクスだが、女王の使命を僅かでも肩代わりする事は不可能なのだ。
独りで宇宙を守るという責任を引き受ける、この可憐な少女を、ただ見守る事しか出来ない、無力感。
ニクスはベッドに寝かせた白い手を、そっと握って自らの唇を押し当てた。

「我が女王…、私の愛しい人。…その底の無い慈愛の心が、あまりに美しくて」

あまりに美しくて、心配が止まない。心配で気が狂いそうだと、ニクスは溜め息を吐く。
深い深い愛情を宇宙育成に注ぎ、その為に自らの犠牲を厭わない彼女だからこそ、ニクスは恋に落ち、守りたいと思った。
エレボスを身に宿した敵のニクスをも、その慈愛の精神で救った少女。計り知れない罪を重ねたニクスに、少女は生きても良いのだと説いたのだ。

安らかに眠り続ける若き女王。三日も休まず祈りを捧げていたのだから、もうしばらくは眠ったままだろう。
彼女が目を覚ました時の為に、食事を作っておこうか。それとも浴室に熱い湯を?
この愛しい恋人のためなら、なんだって出来る。彼女の望みは全て叶えよう。

「ですが今だけは、あなたの愛らしい寝顔を見つめ、この不埒な唇を寄せる事を、どうかお許し下さい」

心配で、恋しくて、不安で、愛しているから。
触れずにはいられないと、ニクスは少女の手の甲にキスを落とした。
上質なシルクのナイトドレスから覗く細い腕に。
袖を捲って肩にも。
首筋から鎖骨に、また首筋に戻って頬から鼻の頭、瞼にさえ。ニクスは淀みなくキスの雨を降らせる。

「…あの…恥ずかしいです…ニクスさんっ…」

少女が遠慮がちに目を開けたのは、丁度ニクスが柔らかな唇にキスしようとした時だった。
ただ眠っていただけ。そうは分かっていても、彼女が無事に目を覚ましたとなり、内心ニクスは安堵する。
だがそんな感情は少女に気を遣わせるだけだと隠し、ニクスは優雅に微笑んだ。

「おやおや…いつから起きていらっしゃったのですか?私の口付けを受けたくて、ずっと眠ったふりを?」
「そ、そんなんじゃ!ただ起きるタイミングを掴めなくて、つい…」
「冗談ですよ、美しい眠り姫。あなたの目覚めにお付き合い出来た幸福に、私の胸は打ち震えています」
「もう…ニクスさんは大袈裟なんですから」
「信じて頂けていないようで残念ですが、ひとまずは…。おはようございます、マドモアゼル」

おかしげに小さく笑う様は幼く見えて、ニクスも笑いながら彼女の唇にキスをした。
一瞬離れて、また口付ける。そんな事を四度続けるとさすがに苦笑されて。

「ニクスさん、何だかいつもより甘えん坊ですね」
「…申し訳ありません。静かに眠るあなたがあまりに神々しい聖女のようで、傍らに佇む私はその輝きに惹かれるばかりの暗き罪人。自らの罪を吐露し、聖女に受け止めて頂きたい心地に陥り、ついあなたの清廉なお体に手を伸ばして体温を――」
「も、もういいですっ!分かりました!」

いつしか彼女の顔は真っ赤に染まり、焦り果てている。少し、言葉を重ね過ぎただろうか。だが全て本心なのだから仕方ない。
ニクスは素直に身を引き、ベッドから出る少女の肩に淡い水色のブランケットを掛けてやる。
アルカディアにいた頃よりずっと心身共に成長した彼女は、数段魅力的になった笑顔でニクスに礼を述べた。

「ありがとうございます、ニクスさん」
「ああ…どうかその極上の微笑みを容易く私に見せないで。天使と見紛うあなたの笑顔は、それを見る者の心を奪い、虜にするだけで飽き足らず、支配という甘美な鎖で――」
「ニクスさん!!…もう知りませんっ」

今度こそ少女は恥ずかしさからか眉を寄せ、多少の怒りと共にニクスを睨み付けた。
そして疲れなど感じさせない足取りで部屋を出て行く。
開け放たれた窓から吹く風に乗り、揺れる水色の髪。艶を失わないその髪先に触れてしまいたいが、今はこれ以上やると本気で怒らせそうで。

「待って下さい、マドモアゼル。あなたにモーニングティーを振る舞う栄誉を、どうぞ私に」

ニクスは後を追って部屋を出た。
少し先を足早に行く、小さな、しかし尊い背中のみを見つめて。
きっと死ぬまで、自分はこの背を追いかけ、守り続けるのだろう。遠い遠い存在の女王の背中を、いつまでも。
だが、前を歩く少女が朗らかに振り向いてくれるから。

「はい!ニクスさんの紅茶は美味しくて大好きなんです」

無力感に負けずにきっと、どれ程離されようと諦めずついて行けるのだろう。
ニクスは少女の言葉に心から湧き上がる愛しさを笑みに乗せ、そっと抱き寄せた。










fin.






途中でニクスを書いてるのか柊を書いてるのか分からなくなりました。
ネオアンジェの続編早く出ろーぃ!

ヒロインはアンジェリークですね。
◆吸血鬼×修道女


お相手→土岐蓬生








激しい雨がステンドグラスを叩きつける。その寂寥感漂う雨音の満ちる教会にキャンドルの灯りはなく、遠雷の刹那的な雷光で度々教会が眩く照らされるのみ。

寒い。寒くて、暗い。

私は寒さに白い息を吐き出しながら、首から提げたクロスを両手でしっかりと握り締める。
小刻みに震えるクロスに、寒さだけではなく恐怖からの震えなのだと自分で分かっている。

「ッ……犬が…」

教会の門前にある犬小屋で飼っている犬が、猛々しく吼えた。
何かを拒むように。その何かに怯える自らを鼓舞するように。
だが次第にその鳴き声は静まり、ついには聞こえなくなる。私の体は一層震え縮まった。




やがて、古めかしい扉が音を立てて、ゆっくりと開かれた。




「っ来ない、で…!来ないで!来ないで!!」

扉の向こうから革靴を鳴らして歩いて来る男は、私の悲鳴に唇を満足げに笑ませた。
雨音が強い。
雷光が射した。
男の横顔を一瞬照らす。
眼鏡の奥には愉悦に染まる瞳があって、私は強く強く手の中のクロスを握り締めた。

「…なんや、えらい歓迎やねえ。雨の中わざわざ迎えに来たんよ?」
「ひッ、人殺し!」

村や町で何十人という娘が餌食となっている、吸血鬼事件。
首筋に牙を突き立てられ、体内の血を一滴残らず貪り尽くされ、無残な抜け殻となり果てている娘が毎日発見されているのだ。
その吸血鬼から血で書かれたラブレターが届くようになったのは7日前からだ。
怖くて怖くて、でも警官に相談しても無視をされて、自分で自分を守るしかなくて。
毎日届く手紙を開きもせず、すぐに燃やした。




だけど、そんなささやかな抵抗も虚しく、吸血鬼は今、私の目の前に立っている。
神様、神様。
私はマリア像の足下にうずくまり、ただただ我が主に祈りを捧げるしか出来ない。
吸血鬼は滑らかな紫の髪を払いながら、ふわりと軽やかに私の眼前にしゃがみ込んだ。
何十人という女性の命を奪ってきた冷酷な吸血鬼とは思えない程に、暖かな眼差し。だけど私の頬に触れた男の手は冷え切っていた。

「あんたら人間も生きるために牛や豚を食べるやろ?それと同じことや。……でも、只の食事のために此処に来たんやないよ」
「さ、わらないで…!」
「その気の強い目、こんな間近で見れるなんて夢みたいや。俺の手紙読んでくれたんやろ?」

繰り返し繰り返し綴られた愛の言葉。攫いに行くという予告に、私は夜も眠れず震えて朝を待った。
男の指先が頬を滑り、耳をなぞると髪を一房取って唇を寄せた。
鳥肌が立つ。
雷光が教会内に走った。雨音は止まない。

「綺麗な髪やね。ずっと触れてみたかってん」
「やめ、て…」
「ひと月前、街角で足ケガした黒猫、治療したやろ?ありがとうね。痛くて帰れんかったから助かったわ」
「っ……」

男が整った顔を笑顔に変えた。
柔らかな微笑み。
何故だろう、体の震えが止まった。きっと何か魔術をかけられてしまったのかも知れない。
男の纏う香りが芳しくて、仕草一つ一つが慈愛に満ちていて、吸血鬼から目が離せなくなる。
男はそんな私に小首を傾げ、妖艶に目尻を下げた。
ふと両手に男の手が触れ、その冷たい手に握り締めていたクロスを奪われる。
神様、神様、ごめんなさい。
クロスが遠く放り投げられるのを、私はぼんやりと他人事のように眺めた。

もう、私にはあんなもの。

「吸血鬼が怖いんは、十字架そのものやのうて、神様を信じる強い信仰心なんよ。でも今のあんたは神様やなく、俺のことで頭いっぱいや。……捕まえたで、シスター」

男の、吸血鬼の、彼の瞳が赤く光った。唇からは鋭い牙がちらつく。
その牙がもたらす苦痛と快感に焦がれ、私は瞼を閉じた。

「愛しとうよ、あんたを」

吸血鬼の甘い声と共に首筋に熱い楔が打ち込まれ、私は意識を失った。

雷光は見えない。
雨音は聞こえない。
もう、私にはこの人しか。








fin.


土岐か大地かで悩みました。やっぱり吸血鬼といったら大地だし…と思ったのですが、土岐の方が似合いそうだと思い。

ヒロインはシスターらしく淑やかに、という目標でした。
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