何気なく、綺麗なオレンジ色に染まっていく夕焼け空を眺めながら歩く並木道。
ぼんやりしていたからか、隣に並んで歩くクラヴィス様に不意に話しかけられて、わたしはついポカーンとしてしまった。
「エトワール…何事かあったのか?」
「………えっ、なんですか?」
「先刻から溜息ばかりではないか」
ぼーっとしていた私の顔が面白かったのか、珍しく苦笑しながらわたしを見るクラヴィス様。
慌てて意識を夕焼け空から会話に戻して、わたしは取り繕うように乾いた笑い声を出した。
「あ、はは…。ちょっと…」
「…悩み事か?何か使命に関する事柄に問題でもあったのか」
「だ、大丈夫です!大したことじゃありませんから!」
眉を寄せて本気で心配し始めるクラヴィス様に、わたしは勢い良く首を横に振った。だって、本当の本当にくだらない悩みだもの。
いつもわたしを案じて支えてくれるクラヴィス様だけど、こんな悩み事なんかでムダな心配をかけたくないわ!
だけどクラヴィス様はわたしの強い否定に一層険しい顔をすると、足を止めてしまった。
「…お前の曇った顔を私に見せるな。何があったのだ?」
「ほ、本当に何も…!クラヴィス様のお耳に入れるようなお話じゃ!」
「………」
「あ、あの…」
「……私では力になれぬと、いう事か」
長い睫毛を震わせ、そっと伏せられた瞼。
滑らかな黒髪を揺らして俯いた横顔は無表情の中に微かな寂しさが見えて、わたしは不謹慎にもときめいた。
あのクラヴィス様が僅かでも感情を表に出すのが新鮮だから…かしら。じゃなくて、早く誤解を解かなきゃ!
わたしはすぐにクラヴィス様の顔を覗き込んだ。切れ長の瞳がゆるりとわたしを映す。
「違います、クラヴィス様!本当にくだらない悩み事で…」
「………」
「あの…欲しいものがあって、でもサイフと相談したら到底買えないもので、それでちょっと落ち込んでただけなんです」
素直に悩みを白状した。クラヴィス様に聞かせる内容じゃないけど、言わない方が逆にクラヴィス様に申し訳ない気がして。
クラヴィス様はわたしの悩みを聞くと一瞬の間を置いて、すぐに唇を不満げに引き締め、おもむろに今まで歩いて来た道を戻り始めた。
引きずっている上質のローブを踏まないよう気をつけながら、わたしもクラヴィス様の後をついて行く。
並木道の先には、今日一日わたしとクラヴィス様が楽しく過ごしたセレスティアがある。きっとこの時間帯はパルク・ディマンシュが綺麗なイルミネーションだろうな。
「クラヴィス様?」
「欲しい物があるならば、何故セレスティアを出る前に言わぬ?」
ちょっと苛立たしげな声音。セレスティアに戻って買ってくれる気なんだ…!
そう悟ってわたしはクラヴィス様の前に立ちはだかった。
「クラヴィス様!いいですいいです、大丈夫です!そう急いで買わなきゃならない物じゃないので!」
「だが、お前はそれが欲しくとも手に入らぬから…沈んでいたのではないのか」
「そうなんですけど、来週にはちゃんと買える予定なので!レイチェル様とお会いした時にお小遣いを頂ける手筈ですから」
クラヴィス様にわたしの物を買わせるわけにはいかないわ!断じて!
必死になって引き止めると、わたしのあまりの形相にクラヴィス様も足を止めてくれた。
な、何だか今日は変な顔ばかりしてる気がするわ…。
「…よいのか」
「はい。いいんです。ありがとうございます」
「……」
あんまり納得してないような顔だけど、何とかクラヴィス様は足を止めて再び宮殿へと続く方向に戻ってくれた。
ああ良かった…!まさかわたしの欲しいものがテレビゲームソフトなんて言えないもの!
ホッと胸をなで下ろして、クラヴィス様の隣に改めて並ぶ。ゲームソフトは来週、またセレスティアに行って買おうっと。
ふふ、来週が楽しみだわ!
「…ようやく、笑みを見せてくれたな」
「え?」
来週のことを思って自然と笑っていたわたしに、クラヴィス様が柔らかな笑みを向けた。
その微笑みがあまりに美しくて、わたしの方がつい息を呑んでしまって。
「……実は私も欲しい物があったのだ」
「そうなのですか?」
「だが今、手に入った」
「今?」
「とこしえに続く闇に輝く、目映い私の星…。お前の笑顔だ」
クラヴィス様の指先が頬に触れて、すぐに離れていった。
口角を上げて、細めた目で。クラヴィス様にしては本当に珍しく意地悪なお顔。
「お前に笑みを浮かべさせたのが私でなく、その欲しい物というのが悔しいが…な」
fin.
オチ?なにそれおいしいの?
「戦国無双3Zが今日発売なのに金欠だしPS3本体もないから買えないー!」という私の悲しみから生まれたネタでした(笑)
吉羅→譲→クラヴィスと相手が変遷しました。ちょうど見てたアラモード4の執事クラヴィス様があまりに素敵だったから…ついクラヴィスに…!
まあ私にはお小遣いくれるレイチェル的存在はいないんですがね…泣きたい。
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