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「はぁ………」

先程から、何度聞いたか知れない、どこか甘ったるい溜め息を吐く彼女をちらりと横目で見やり、その視線に気付かれない内に私はまたフロントガラスへと目線を戻す。
彼女は頬を緩め、どこか紅潮すらさせながら手元にある大き目のパンフレットを覗いては、また熱を含む溜め息を吐いてその薄い冊子を抱き締める。

「…そんなに、良かったかね」
「はい!ほんとにほんとに良かったです…っ今回の映画!」
「そうか。君がああいうSFモノが好きだったとは知らなかったよ」
「3D映像には少し酔いましたけど、迫力のある映像でしたよね!それに何より、ロボットがとてもかっこよくて!」

巷で人気のロボットSF大作。シリーズ作品らしく今回彼女と観に行ったのは3作目だったらしいが、私は前作も前々作も観ていない為、話の内容や設定を理解するのに少し苦心した。
だが彼女はそのどちらともを観ていて、シリーズを気に入ってしまったらしい。だからこそ今日も映画館へと赴いた。本当は映画館で三時間潰すよりは、彼女の声をその分多く聞ける他の場所が良かったが…彼女が映画をと言うならば、仕方ない。

「不思議。人間みたいに表情もないし、それどころか顔もはっきり作られていないのに、とても凛々しく見えました」
「そうか」
「特にあのリーダーが!ピンチの時には体を張って助けてくれて…!もう、ほんとにかっこいいです!」
「……そうか」

映画の中の、創られたヒーローの、更にロボットに嫉妬とは…君に気付かれれば、本気で呆れるだろうか。そう、口角を歪めて自嘲する。
彼女の腕の中に大人しく収まっているパンフレットを、奪い取って窓から捨てられたなら、どんなに気分が晴れるだろう。――彼女を悲しませる真似など、絶対にしないが。

「…そうだな。確かに面白い映画だった。…あのヒロインも容姿端麗だったと記憶している」
「…あ、そ、そうですね。はい、本当にきれいな女優さんでした」
「アクションシーンもなかなかキレのある動きをしていた。まだ発展途上の女優だが、これから先が楽しみだ」
「……そう、でしたね」

――君の顔が曇っていく理由は、私と同じ感情に支配されているからだと、自惚れても構わないのだろうか。そう考えると途端に気分の良くなる私は、やはり心が狭いのだろう。
だから、お互いに機嫌を直すとしようか。
私は赤信号に止められた車にブレーキを踏むと、元気なく顔を俯かせた彼女の腕から冊子を奪い取り、後部座席へと投げてからその白い頬にキスをした。

「…人間の私でも、あらゆる危険から君を守る事は出来る」

と、些か意地にも似た、誓いを述べながら。









fin.









ただ単に私がとらんすふぉーまーを観て萌え萌えしただけなんですけどね!!
あああああもう…っ、オプティマース!!!ほんっとかっこいいオプティマス!
今劇場公開している3を観に行きまして、実は1も2も観てなかったんですが3だけでもじゅうぶん楽しめました。映像的に!ああもうオプティマス!かっこいいよ!バンブルビーもかわいい!
で、今日1と2を連続で観てきゃあきゃあ言ってました。ロボットやばいかっこいい。あ、人間だとあの少佐がかっこいいですよね!レノックス?だっけ?
父親に「わたしオプティマスと結婚するねん」とメールをしたら、「身長差が問題やね」と返ってきた。問題そこだけか。なんか頑張れそうな気がする。
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漆黒の夜空に高々と打ち上がる花火。
色とりどりの鮮やかなそれに、集まった何万人もの観客が何度も何度も歓声を、感嘆を、感動を漏らす。
だが、私にとってそれらは、花火も含めてだが、隣にいる彼女をより楽しませる為の単なる材料にしか過ぎない。
この騒然とした人混みの真っただ中で、花火大会の進むにつれ高揚感の膨れ上がっていく雰囲気を楽しみたいならば、この場所で。
花火の低く弾ける音のみを楽しみたい。静かに、ゆっくりと、と彼女が望むならば、それに適した場所へ誘うだけだ。
そして今日は、彼女が前者を望んだから、私はこうして夜空を楽しそうに見上げる彼女と共に、会場へと足を運んでいる。

「わー…っ」

夜空に咲く派手な花に興味はない。
ただ、至極楽しそうに笑む愛しい人の瞳の中に咲く、小さな花を見ていられたら、それで。
白い頬を明るく照らし、黒い瞳を彩って、涼やかな浴衣に風流を添える、単なる材料。私にとって花火とは、その程度のもの。
だが、君にとっては違うのだろうね。だからこうして、可愛らしく歓声を零す君を抱き寄せず、手を繋ぐのみで我慢している。…君はそんな私の努力を、おそらく一生知らないままだろうが。

「キレイです…ッ!きれいですね、理事長!」

時折私を見やって、すぐに空へと視線を戻す様子に、私がどれほど妬いているかなど考えもしないで。
――さて、君は気付いているのだろうか。

「ああ…綺麗だ。何よりも、誰よりも」

私の目が、君しか捉えていない事を――ね。










今日、地元で大きな花火大会がありまして、これは書くしかないなと。まあ超短文ですがね!

とととととととところで!!!
さっきネオライの優先販売に申し込んだんですがねチケットを!
会場限定販売CDのとこに「白虎」ってあったんですけどォォォ!!!!桜智&帯刀っすか!?早くもデュエットフラグですか!?あああああ今回1日目そろうもんね二人ィィィ!!!
あああ気になる…!気になりすぎて眠れない…!!
帯刀さんがひたすら歌って、ちょいちょい桜智が合いの手でキモチワルイ囁きを入れるとかそんなんでお願いします(そんなんでいいのか)




コロコロと舌の上であめ玉が滑る。
パチパチと弾ける炭酸ソーダの爽やかな味が口内に広がって、とても美味しい。

「何を食べているのかね?」

ふと隣の運転席から尋ねられて、わたしは夜景の流れていく窓から左へと顔を向けた。
ちょうど大型レンタルショップの青い看板の眩しい光が理事長の端正な横顔を照らした。

「あめです。火原先輩にこの間いただいて」
「そうか。彼はよく菓子を口にしているようだね」
「新製品とか季節限定商品なんてあったら、まず買ってると思います」

理事長は迷いなくハンドルを切って車はわたしの家へと走って行く。
なんてことない会話。だけど、内容よりもっと大切で暖かな何かをキャッチボールしているような、そんな、別れ際の他愛ない会話。
理事長の声は淡々としていて、今もまたわたしの言葉に微かな笑みを浮かべ「まるで子供だな」と呟いた。
車内にはわたしお気に入りの弦楽器アンサンブルの曲が流れていて、クーラーの温度は少し高めの28度。
いつかクーラーが25度だった時に一瞬だけ寒さに腕を擦ったわたしに、理事長がさりげなく温度を上げてくれてから、車内はいつだって28度だ。
助手席のシートの位置もいつだって同じ。狭すぎず広すぎず、ぴったりだ。
乗るたびに、わたしに適した空間になっていく理事長の車。お礼を兼ねていつか一緒に掃除させて欲しいと言ったら迷惑だろうか。

「私にも一つ貰えないかね?」
「え?」
「その飴だ」
「あ、は、はいっ」

ひらりと理事長の手のひらが横から差し出されて、わたしは慌てて膝の上に置いていたカバンを開く。
そこでとある事実を思い出して、つい眉を八の字に描いた。

「どうしたのかね?」
「すみません…今わたしが食べているのが最後だったんです」
「そうか。それは残念だ」
「本当にすみません…」

火原先輩にはいくつか貰ったんだけど、もう全部食べちゃったんだった。ああもう…、どうして残してなかったんだろう。

「いや、君がそんな顔をする必要はない。それに……好都合だ」
「え?」

理事長の口角がゆるりと上がる。いかにも愉快そうな笑みと共に車が徐々にスピードを落としていって。
やがて交通量の多い大通りの脇へと一時停車された車。理事長がおもむろに自分のシートベルトを外したのを見てわたしは戸惑った。

「降りるんですか?」

理事長は悪戯な笑みを深くしただけで答えない。キーに手を伸ばしくるりと回して完全にエンジンを切った。
クラシックも冷房も切れて途端に静かになる車内。車のすぐ近くを走り抜けていったバイクの音がやけに乱暴に聞こえた。

「理事長…?」

尚も理事長は笑みを湛えたままこちらに上体を近寄せてきて、縮まる距離にわたしは背後のドアへとガタリ、逃げた。未だシートベルトに縛られたままの体に自由はさほどなく、ベルトが軋む。

「り、理事長っ、近いような、気がします!」
「そうだろうな」

あっけらかんと返され、理事長の左手が優しく右頬に添えられる。あめ玉がごろりと、緊張しきった口の中で転がった。
細くキレイな親指の爪先がつ、と下唇をなぞっていく感触がくすぐったくて背筋が震えた。

「…最後の飴、か」
「……?」
「まあ、お決まりはあえて外しておくとしよう」

理事長の言ってることが分からなくて首を傾げると頬に触れていた手があっさり離れていく。じわりと、小さくなってきたソーダの味が舌に広がった。
シートベルトが理事長の手によって手早く外され、ドアのロックが解除される音がした。

「好都合というのは、君とまだ共に居られる口実が出来たという意味だよ」
「口実ですか?」
「君をまだ帰したくないと思っていた。だから、少しコンビニにでも寄って行かないかね?」

理事長の指がこつんと、わたしの肩を越えて背中側にある窓を軽くつついた。
その先には大通りに面したコンビニが。

「その飴を買いに行きたい。付き合ってくれたまえ」
「…はい!行きます!」
「ほう、乗り気のように見えるが」
「わたしも、その、まだ一緒に居たいから」

窓の向こうに流れていく景色を眺めながら、ひっそりと抱いていたワガママ。理事長と一緒だったんだと知ると驚くほどに自然と唇から零れた。
――理事長も嬉しそうに微笑んだから、言って良かったんだよね?

「では行こうか」
「はい、理事長」

いつもよりちょっと遅い帰りになるかも知れない。お母さんに咎められるかも知れない。だけど少しだけ、寄り道をさせて欲しい。
いつの間にかなくなったあめ玉。
きっと十分後には新しいあめ玉を舐めているだろう。
理事長と二人で選んだ、甘いあめが。











fin.











イベントまでもう一週間ないー!と思ったら書きたくなった吉羅でした。お決まりのアレとはまあ、アレですよね。「最後の一つ?ああ、それならその一つを貰おうか」ですww

ああうああああイベント早く行きたいー!!夕夜を!私に早く夕夜を!(笑)
イベント行く前に遙か5の配信イベントも終わらせたいな。まだ青龍と朱雀と都しか終わってないよ!りょーまさんが凄まじくけしからんかったよ!


弓道部のなかなかハードな練習を終えて帰宅した俺は、キッチンの惨たらしい状況にドサリと重い荷物をフローリングに落とした。

「な…なんだ、これは…!」

コンロに置かれた鍋は何か茶色い液体が、おそらく煮込まれすぎたのであろうこびりついていて、コンロにはその液体が噴き出したのか汚れに汚れている。
まな板には元々の形状が分からないほどぶった切りにあった緑色の野菜が飛び散っている。包丁はどう扱えばこれほど痛ませられるのかと首を傾げるくらいに、刃が毀れている。
何を作ろうとしたのか、片栗粉らしき白い粉がキッチンいっぱいに振り撒かれていて、恐る恐る食器棚の持ち手を触ると、指先が白く染まった。

「一体どう暴れたらこんなに汚れるんだ!」

無人のキッチンだけど、誰かが酷い扱いをしなければこんなことになるはずがなく、両親のめったに帰らない有川家は俺と兄さんしか住んでいない。
そしてその俺が目を剥いて驚いているのだから、犯人は自然と一人に絞られる。

「兄さん…ッ」

キッチンにはめったに立たず、料理なんてそれ以上にしない兄さんだ。どうしてこんな暴挙に至ったのかは知らないけど、とりあえずは一喝したい。
制服のポケットに入れていた携帯を乱暴に取り出して、メモリーから兄さんを探してすぐに電話をかける。

『もしもし、譲か?』
「兄さん!!なんだよこれは!」
『は?これってどれだよ』
「キッチンに決まってるだろ!どんな調理をしたらここまで汚れるんだ!」
『………ああ、なるほどな』

俺の怒鳴り声に全く動じず、むしろおかしげに笑い声すら含ませて兄さんが呟く。
そんな態度が俺の神経を逆撫でするって、生まれた時から一緒にいるんだからそろそろ気づいてくれたっていいのに。

「兄さん…!」
『俺じゃねぇよ。アイツだ、アイツ』
「あいつ?』
『今日、家のカギ貸してくれって言われてな。何の目的かと思ったが、そういうことだったか』

兄さんがアイツと呼んで、抵抗なく家のカギなんて大事なものを貸せる人は一人しか思い浮かばず、俺はあんぐりと口を開いた。

「じゃ、じゃあ、これは先輩が…?」
『なんだよ、そんなにひでぇ事になってんのか?俺が帰るまでそのままにしといてくれよ。見たい』
「切るよ!先輩を探さないと!」
『おい、ゆず――』

兄さんの制止を軽く流して電源を押す。
先輩…!先輩、一体何が…!何があったんだ!?
いくら料理の苦手な先輩でもここまではならないはずだ。何かあったに違いない!

「先輩…っ!」

教科書の入ったカバンを足で邪険に蹴り壁に寄せながら、俺は兄さんとの繋がりを切ったばかりの携帯で次は先輩を呼び出そうとした。
その時、二階から微かな物音がして、俺は動きを一瞬で止めて耳をすませる。
あの京で、磨かれたのは弓の腕と、生死を懸けて戦う手段。どれほど小さな音だろうと鍛えられた耳が逃すことはない。
そしてそれは二階にいる人物も同じのようで、一瞬で気配を消し去ると吐息一つさえも零さずじっと静かにしている。

「…俺の部屋、だな」

音の聞こえた方角的に、俺の部屋だ。
俺はそこで必死に隠れている人を引っ張りだすべく、自室へと向かった。








「……ごめんなさい、譲くん」

俺が部屋に足を踏み入れると、ベッドの中で丸まっている先輩が蒼白な顔でひょっこり顔だけを覗かせた。
薄紫の滑らかな前髪を白い片栗粉が染めている。
しょんぼりと下げられた眉尻に、こっちを怯えて見つめてくる顔があまりに…可愛くて。
俺は心配よりも怒りよりも、微笑ましさから小さく笑ってしまった。

「…どうしたんですか、先輩」
「…晩ごはんと、ケーキを作ってみたくて」
「どうしてこの家で?」
「だって、譲くんに食べてもらわないと意味ないもん」
「俺に?」

先輩の意気消沈しきった声で紡がれた俺の名前に、心臓が跳ねる。何年も何年も好きだった人の声は他の誰と比べても特別で、俺の頬は緩むばかりだ。
先輩はゆっくりと上体を起こして俺をまっすぐ見据えた。

「だって譲くん、誕生日じゃない!」
「……え?」
「今日!」
「……あ、本当だ」

そういえば、教室の黒板に書かれていた日付はまさしく俺の誕生日だった。なんてぼんやり思い出す。
もそもそとベッドから抜け出てきた先輩はキャベツの切れ端やら油が点々と描かれたエプロンを着けたままだ。大方、調理の途中で絶望して投げ出したんだろう。現実逃避に選んだ場所が俺のベッドの中だったってことが、少し――いや、相当嬉しい。

「それじゃ先輩、俺のために料理を?」
「そうだよ。でもごめんね…。汚すばっかりで…」
「…いえ、嬉しいです。とても。すごく、嬉しいです」

じんわりと胸が暖かくなった。
やっぱり俺はこの人が好きだ。誕生日というこの日に、それを改めて胸に刻めて、俺は幸せだ。

「ほら、行きましょう。一緒に片づけて、一緒にご飯を作りませんか?」
「…うん!ごめんね、ほんとに」
「ごめんじゃなくて、他の言葉が欲しいですね」
「あ!…えっと、誕生日おめでとう!譲くん!」

満面の笑みで告げられた言葉が、何よりのプレゼントだと、この人は分かっているんだろうか。
さっきまでのしょげた姿とは一変して、軽い足取りで部屋を出て行く背中を追って俺も部屋を出た。
ひとまず片づけが終わって落ち着いたら、その時はとてつもなく不器用で、とてつもなく可愛らしい人をそっと抱き寄せてもいいだろうか。

「…兄さんが帰ってくるまでに、片付けばいいけど」




fin.





誕生日おめでとう譲ー!!
愛してる!!全力で愛してる!!
これからも愛してるー!!

譲×望美で、既に付き合ってる設定でした実は!
突発的に書きたくなった吉羅夢。甘々を目指したつもり。固定ヒロイン設定ですが、別にそうじゃなくても読めそうな。
ちなみに新婚さんです。












ぺらり、ぺらり。
ページの擦れる音が途切れず、規則的に聞こえ始めてから、かれこれ二時間は経っている。
何が書いてあるのか、わたしにはさっぱり分からない経済の分厚い本を読み耽る暁彦さんの横顔は、至って真剣だ。
黒い革のソファに深く腰掛け、すらりと長い脚を優雅に組んで、時折テーブルに置いたカップに手を伸ばしながらも本からは目を外さない暁彦さん。とても集中しているみたいだ。
だから、わたしは。

「(…ひま、なんて言えないよね…)」

時計を見上げると、まだ午後3時半。久しぶりに一日休みな暁彦さん。
眩しいくらいに晴れたお天気のおかげで早々に乾いた洗濯物を畳みながら、わたしは何度も、暁彦さんが本を閉じないかと盗み見ている。
何回か、見ているのがバレて……あ、今も、また。
ふっと顔を上げて、わたしをきれいなルビーの瞳で見つめて、優しすぎる微笑みを向けてくれる。

「よく乾いているかね?」
「え?」
「洗濯物だよ。今、君が畳んでくれている」
「あ…。は、はい。もちろんです。ちゃんとアイロンもかけておきますね」
「いつも助かるよ。ありがとう」

柔らかな声音でお礼を言われ、わたしは首を横に振る。
会話は終わったとばかりに、暁彦さんは再び本に目を落とした。
…寂しい、なんてばかみたい。こんなに側にいるのに。同じ部屋にいるのに。

「(そうだ。お風呂も洗っておかなくちゃ)」

寂しがってる場合じゃない。お風呂も洗って、夕飯も作らないと。
よし、と気合いを入れて、暁彦さんのワイシャツにアイロンをかける。
ぺらり、ぺらりというページの進む音は途絶えない。時々、かちゃり、とカップの音が間に挟まる。

「(…暇だなあ)」

もうちょっと、ほんの少しでいいから、構ってくれないだろうか。…なんて、わがまま言えないけど。









アイロンを終えて、お風呂を洗い終えて、夕食の下ごしらえを終わらせて、やることがなくなってしまった。
時計を見ると、五時半。リビングのソファをこっそり見ると…二時間前と全く変わらない体勢で本を読み続ける暁彦さんの姿。変わったことといえば、本の残りページと空になったカップ。
ほんの少しの期待を胸に、こそこそと暁彦さんの側に寄って、わざとカップを音を立てて持ち上げる。
――暁彦さんはものすごく集中しているのか、わたしに気付かずずっと本を読んでいる。もしくは気付いてるけど反応しないのか。
がっかりしながら、カップに二杯目のブラックコーヒーを入れて、今度は本当に気を配ってそうっとテーブルに戻す。やっぱり暁彦さんは微動だにしない。

「(…今日は、もう仕方ないか)」

暁彦さんは久しぶりの一日オフ。自分の時間をおろそかにしたい人なんていないし、今日はゆっくりさせてあげなきゃ。
寂しがり屋な自分にそう言い聞かせて、わたしは自分も何か飲もうかと再びキッチンに立つ。
…あ。

「(そうだ、香穂ちゃんに電話しなきゃ)」

来週の土曜、久しぶりに天羽ちゃんと三人で会おうって誘われてたんだった。
早めに返事しなきゃと、わたしはリビングのテーブルに置きっぱなしだった携帯電話を取る。暁彦さんは、本にぞっこんだ。……ぞっこんって死語?
キッチンで電話しても読書の邪魔になりそうで、わたしは廊下に出て香穂ちゃんに電話をかける。
すぐに電話に出た香穂ちゃんは元気そうで、わたしは会った時に話そうと思っていた話題をいくつか出して、久しぶりのおしゃべりを楽しむ。
そうして十分後。

『――それでね、来週の土曜はそこに行こうと思うんだ』
「香穂ちゃんオススメのカフェなら楽しみだな。天羽ちゃんにもね、いっぱい――」

話したいことが――。
そう続けようとしたわたしは、後ろから突然伸びてきた腕にびっくりしてつい絶句した。

「っ!?」
「………」

背中から腰に回る両腕はもちろん暁彦さんで、ぎゅうっと強く抱きしめられる。コーヒーの香りがふわりと鼻をくすぐった。
電話の邪魔をする気はないのか、無言のままの暁彦さん。まるで甘えるように、わたしの肩口に顔を埋めて。

『もしもし~?聞いてる?』
「あ…、ごめん香穂ちゃん、聞いてなかった!」
『そんな堂々と聞いてなかったなんて言われても!…どうしたの?忙しい?』
「う、ううん。忙しくないんだけど…」

どうしようと暁彦さんをちらりと見ると、暁彦さんは何も言わずに腕の力を強める。
首にあたる黒髪がくすぐったくて、肩を竦めた。こんな状態で電話なんて出来ないよ。

「…ごめん、香穂ちゃん。やっぱり、またあとでメールするね」
『やっぱり忙しかった?うん、それじゃ待ってるね』

香穂ちゃんは突然忙しいなんて言い出したわたしを詮索することもなく、気を害することもなく電話を切ってくれた。
通話の切れた携帯を握りしめて、わたしは顔を上げた暁彦さんを見やる。
暁彦さんはわたしの頬に一瞬だけのキスを施すと、ようやく腕を解いた。

「…すまなかったね。無理に電話を切らせて」
「いいえ。…ごめんなさい、うるさかったですか?」
「いや。…君が側にいないと、集中出来なくてね」
「本に、ですか?普通、誰もいない方が集中出来るんじゃ…」
「君に関しては、残念ながら私は普通ではない。…来たまえ。あと少しで読み終えるんだ」

リビングまで腕を引かれながら、わたしはちょっとだけむっと唇を尖らせた。
わたしは何時間も、寂しいのを我慢して静かに、静かにって頑張ってたのに。暁彦さんはたった十分しか寂しさを我慢してない。
わたしが側にいないと集中出来ない、なんて台詞でわたしが喜ぶとでも……喜ぶけど……そりゃ喜んじゃうけど……。
またソファに腰掛けて本を開く暁彦さん。その隣にはわたし。やっぱりひまで、わたしは暁彦さんなんて困っちゃえばいい、なんて意地悪な気持ちで、その膝に寝転がった。
目を丸くしてわたしを見下ろす暁彦さんに、にっこりと笑ってみせる。

「側にいるだけじゃ、わたし、何もすることなくて」
「だから膝枕、かね?私の膝では眠れないだろう」
「眠るだけが膝枕じゃないと思います。…暁彦さんの顔、よく見えますから」
「…随分と甘えるのが上手になったね」

暁彦さんの口角が緩やかに上がる。そのままゆっくりと近づいてくる暁彦さんの顔を、わたしは目を閉じて迎えた。
ぱたん、と。
本があっさり、閉じる音がした。







fin.








急に甘々な吉羅夢を書きたくなった!いつもながら固定ヒロインですみません。でも今回は固定ヒロインじゃなくても読めるかな?
後ろから抱き締められるシチュが大好きな私でした。
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