クリスマス記念ということで、何となく頭に浮かんだキャラの夢を書いてみた。
まだ書きたいキャラいっぱいだよーどうしよう。
『ヘヴンオアヘル』
平知盛夢!
ギャグ→シリアス。
※また後日、名前変換有りにして夢ページに移します!
知盛は、目の前の食卓に並べられた料理に度肝を抜かれた。
…今現在、知盛は貴族ではない。今まで豪華絢爛な暮らしをしてはいたが、この異世界に来てからは至って平凡な生活を送っている。
知盛としては以前の何不自由ない暮らしに未練はない。あったならば望美について現代になど来るはずもない。
貴族だろうが平民だろうが、知盛としては安眠が得られる地ならばどんな立場だろうと住処だろうと構わないのだ。…欲を言えば命の危険がある地なら尚良いが。
現代に来てからはさほど不自由も感じていない。望美や将臣や譲が甲斐甲斐しく(多少鬱陶しく)世話を焼いてくれているおかげだろう。
平民とて貴族と何ら変わらない。服も、食べ物も、執着心のない知盛には些細な違いにしか見えない。
だが…これは一体なんだ…?
コタツという素晴らしい機器の力を借りてぬくぬくと眠っていた知盛は、つい十秒前に起きたばかりだ。
何だか焦げ臭くて上体を起こすと、テーブルには…黒を基調とした…料理と思しき物体が所狭しと並んでいたのだ。
「あ、やっと起きたの?晩ご飯できたよ」
この家の住人よりもこの家のことを知っている恋人が、烏龍茶とコップ二つを手にコタツにやって来た。
知盛は寝癖を直しもせずに、向かい側に腰を下ろした望美を見やった。
「…神子殿の仰る夕餉とは…この黒いモノ達、か…?」
「ちょっと焦がしちゃったの!でもきっと美味しいよ」
きっと、ということは味見をしていないらしい。注がれた烏龍茶を口に含みながら、知盛はこれから我が胃に収まらなければならない料理を見回した。
こんがり焼かれすぎた肉に、炊かれすぎた茶色い米、箸がちゃんと刺さるのか不安になる程に焦げた魚…。
「…これは、神子殿が?」
「そうだよ。今日はイブだし、知盛に私の手料理を初披露しようかなと思ったんだ」
今まで望美は料理を決してしなかった。将臣と譲が決して彼女を台所に立たせなかったからだ。
…その意味がようやく分かった。
望美は、破滅的に、料理が下手だったのだ。
「知盛?ほら食べて」
これを作り出した張本人は何故これらを食べられると判断したのだろうか。腹を空かせた犬でさえ避けて通りそうな出来映えだというのに。
「クッ…試練、だな…」
「知盛?」
恋人(とは知盛は思っていないのだが、将臣曰くそういう間柄にしか見えないらしい。…まんざらではない)の作った料理ならば完食してみせろという訳か。
目の前の欲深き神子殿は、知盛の望美に対する愛情とやらを確かめるつもりなのかも知れん。
「神子殿にこの命…奪われるのも、また…一興…」
「なにぶつぶつ言ってるの?冷めちゃうよ」
久々に感じる高揚感。我が身を待つのは生か死か。
そう…これだ。死が見えた時にこそ、自分が生きていることを感じられる。快感、そうとしか言いようがない。
張り詰めた、心地良い緊張感の中、知盛は周りより一際火の通ったチキンを掴んだ。
掴んだ瞬間にびっくりした。予想の遙か上をいく硬度だ。死ぬより先に歯が折れるかもしれない。
知盛はふっと望美を見た。望美は不思議そうに知盛を見つめ返す。
「なに?」
「………いや」
一瞬、死ぬのが怖くなった気がした。もう目の前の少女に会えなくなるかもしれないと思うと、チキンを食べるのを拒んでしまいそうなのだ。
今まで数々の死線をくぐってきた男が、何という無様な。知盛はクッと笑ってチキンを口に迎え入れた。
「…!…りッ!」
「……?」
「知盛!」
すぐ近くで名前を呼ばれ、知盛は目を覚ました。途端に舌の痺れが襲ってきて、つい顔をしかめる。
「知盛…」
視界いっぱいに広がっていたのは望美の泣き顔で、知盛は目を疑った。
知盛の知る限り、望美は涙とは無縁の女人だからだ。
本物の神子殿か幻か…知盛に確認させる間もなく、望美は知盛の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた。
ゆっくりと冷たくなってくるシャツに、望美がとめどなく泣いているのがよく分かる。
ふと右手が柔らかな何かを掴みそちらを見ると、無意識に望美の頭を撫でていて。
神子殿も自分も、全くもって…らしくない。
「…神子殿、何故泣く」
「死んだ、かと…ッ!思ったの!バカ!」
言葉の割に涙は止まらず、泣き声も止まない。
望美は思い出したのだろうか。過去に何度も彼女自らが死に追いやった、「平知盛」の事を。
チキンを食べて倒れた(のだろう)知盛を見て、過去の悪しき幻覚を脳裏に過ぎらせたのだろうか。
知盛は何故かひりつく喉を酷使して、声を出した。
「俺が…そう易々と冥府へ、行くと…思われていたなら…侮られたものだ、な…」
「だって!白目剥いて、泡吐いて、何回揺すっても呼びかけても返事がなくてっ…」
よほど重症だったらしい。そんな醜態を晒してしまった自分が可笑しくて知盛は笑いを零した。
それが望美は気に食わなかったらしく、勢い良く顔を上げ泣きながらも激怒するという器用さを見せて。
「何が可笑しいの!?私は真剣に心配したのに!また…また私、間違えたのかなって…っ」
「………」
「もう逆鱗はないの!また失ったら…どうしようもないんだから!」
望美の、常に気丈な瞳からは新たに涙が溢れ出した。肩は震え、知盛の胸に置かれたままの手も震えている。
だがそんな少女を慰めようなどとは思わなかった。何故ならば、知盛は苛立っていたからだ。
「俺を、見ていろよ」
いつもより少しだけ早口な知盛の一言に、望美は驚いて知盛を見つめた。
知盛は無表情のまま、望美の濡れた頬に指先を這わせる。
「幾度も戦場で逢瀬を重ねた俺でなく…共に舞った俺でなく…お前に敗れ海の藻屑となった俺でなく、」
最後の言葉で望美の瞳からはまた一筋流れた。それを人差し指で素早く拭う。
望美が「平知盛」を知る程に、知盛は望美を知らない。その事には何とも思わない。思わないが…。
「今の、俺だけを…見ていろよ…」
他の男に囚われる望美など、見たくはない。そんな望美に惹かれた訳ではない。
たとえ相手が他の時空の自分だろうと、会った事のない人間ならば所詮他人でしかないのだ。
望美は心の底から驚いたらしくあんぐりと口を開けた。飾らない表情が素直な彼女らしくて、知盛は緩やかに口角を上げる。
「…知盛が、そんなこと言うなんて」
「そんなこと、とは?」
「や、妬いたり束縛したりなんて、しないから…珍しいなって」
驚きが解けると次には顔を真っ赤にした望美に、知盛は今度こそ笑みを浮かべた。全く、泣いていたかと思えば照れている。ころころと表情の変わる女だ。
ふと思った。初めて思った。まだ死ぬ訳にはいかないと。
いつ死んでも良いと思っていた。戦場で死にたいと思っていた。
だがもっと望美の色んな姿を見てみたいと、唐突にそう思ってしまったのだ。
囚われた、完全に。…だが悪くはないと。
知盛は上体を起こし、望美の腰に腕を回した。
「今宵は聖なる夜、だろう…?たまには恋人らしく、神子殿を愛すのも…良い…」
fin.
なんか知盛のギャグが書きたかったんだけど…後半がシリアスになってしまった!
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