ただ、愛しただけだったのに。
惹かれて、惹かれてくれて、愛して、愛されて、求めて、求められて。
そうして幸せを積み重ね、永遠を確かに感じた。
その果てが、これだとは。
「…土方さん」
「トシ…」
登校した俺を待っていたのは、教室の黒板一面に書きなぐられた侮蔑の言葉。
そして中央に貼られた、一枚の写真。
一昨日の夜、休日を共にした俺と先生が映る、写真。キスをして、俺は僅かに頬を染めて、先生の銀髪に触れている、そんな…写真。
クラスメイトも、廊下から教室を覗いていたやつらも、一緒に登校してきて今黒板を見た総悟と近藤さんも、みんなが俺を見ていた。
知られた。誰かに見つかった。
「気持ち悪いー」
誰かがそう叫んだのをきっかけに、周囲がざわざわと騒ぎ始める。俺の机にも黒板と同じように黒いペンか何かで色々書かれているのが見える。
立っているのか座っているのか、分からないほどにふわふわした心地だった。これは夢か、現実か?
吐きたいような、眠りたいような、…いや、消えてしまいたいんだ。
先生、悪い。あんなところで俺がキスをせがんだから。
先生、先生に迷惑かけちまった。先生、大丈夫なんだろうか。
「土方!!」
一層廊下がざわめいて、俺は後ろから腕を引かれてよろめいた。
びっしりと汗をかいている俺は体全体が暑くて、しかし肌寒くて、震えながら俺の腕を掴んで早足で歩き出す先生についていく。
背後から様々なヤジが飛んできている気がする。もう生体機能がうまく働いていなかった。目の前は真っ暗で、何もかもはっきりと聞き取れないし、口の中はカラカラだ。
ただ、これだけは分かっていた。
今、俺の腕を引いて導いてくれている人とは、もう終わりだということだけは。
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