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突発的に書きたくなった吉羅夢。甘々を目指したつもり。固定ヒロイン設定ですが、別にそうじゃなくても読めそうな。
ちなみに新婚さんです。












ぺらり、ぺらり。
ページの擦れる音が途切れず、規則的に聞こえ始めてから、かれこれ二時間は経っている。
何が書いてあるのか、わたしにはさっぱり分からない経済の分厚い本を読み耽る暁彦さんの横顔は、至って真剣だ。
黒い革のソファに深く腰掛け、すらりと長い脚を優雅に組んで、時折テーブルに置いたカップに手を伸ばしながらも本からは目を外さない暁彦さん。とても集中しているみたいだ。
だから、わたしは。

「(…ひま、なんて言えないよね…)」

時計を見上げると、まだ午後3時半。久しぶりに一日休みな暁彦さん。
眩しいくらいに晴れたお天気のおかげで早々に乾いた洗濯物を畳みながら、わたしは何度も、暁彦さんが本を閉じないかと盗み見ている。
何回か、見ているのがバレて……あ、今も、また。
ふっと顔を上げて、わたしをきれいなルビーの瞳で見つめて、優しすぎる微笑みを向けてくれる。

「よく乾いているかね?」
「え?」
「洗濯物だよ。今、君が畳んでくれている」
「あ…。は、はい。もちろんです。ちゃんとアイロンもかけておきますね」
「いつも助かるよ。ありがとう」

柔らかな声音でお礼を言われ、わたしは首を横に振る。
会話は終わったとばかりに、暁彦さんは再び本に目を落とした。
…寂しい、なんてばかみたい。こんなに側にいるのに。同じ部屋にいるのに。

「(そうだ。お風呂も洗っておかなくちゃ)」

寂しがってる場合じゃない。お風呂も洗って、夕飯も作らないと。
よし、と気合いを入れて、暁彦さんのワイシャツにアイロンをかける。
ぺらり、ぺらりというページの進む音は途絶えない。時々、かちゃり、とカップの音が間に挟まる。

「(…暇だなあ)」

もうちょっと、ほんの少しでいいから、構ってくれないだろうか。…なんて、わがまま言えないけど。









アイロンを終えて、お風呂を洗い終えて、夕食の下ごしらえを終わらせて、やることがなくなってしまった。
時計を見ると、五時半。リビングのソファをこっそり見ると…二時間前と全く変わらない体勢で本を読み続ける暁彦さんの姿。変わったことといえば、本の残りページと空になったカップ。
ほんの少しの期待を胸に、こそこそと暁彦さんの側に寄って、わざとカップを音を立てて持ち上げる。
――暁彦さんはものすごく集中しているのか、わたしに気付かずずっと本を読んでいる。もしくは気付いてるけど反応しないのか。
がっかりしながら、カップに二杯目のブラックコーヒーを入れて、今度は本当に気を配ってそうっとテーブルに戻す。やっぱり暁彦さんは微動だにしない。

「(…今日は、もう仕方ないか)」

暁彦さんは久しぶりの一日オフ。自分の時間をおろそかにしたい人なんていないし、今日はゆっくりさせてあげなきゃ。
寂しがり屋な自分にそう言い聞かせて、わたしは自分も何か飲もうかと再びキッチンに立つ。
…あ。

「(そうだ、香穂ちゃんに電話しなきゃ)」

来週の土曜、久しぶりに天羽ちゃんと三人で会おうって誘われてたんだった。
早めに返事しなきゃと、わたしはリビングのテーブルに置きっぱなしだった携帯電話を取る。暁彦さんは、本にぞっこんだ。……ぞっこんって死語?
キッチンで電話しても読書の邪魔になりそうで、わたしは廊下に出て香穂ちゃんに電話をかける。
すぐに電話に出た香穂ちゃんは元気そうで、わたしは会った時に話そうと思っていた話題をいくつか出して、久しぶりのおしゃべりを楽しむ。
そうして十分後。

『――それでね、来週の土曜はそこに行こうと思うんだ』
「香穂ちゃんオススメのカフェなら楽しみだな。天羽ちゃんにもね、いっぱい――」

話したいことが――。
そう続けようとしたわたしは、後ろから突然伸びてきた腕にびっくりしてつい絶句した。

「っ!?」
「………」

背中から腰に回る両腕はもちろん暁彦さんで、ぎゅうっと強く抱きしめられる。コーヒーの香りがふわりと鼻をくすぐった。
電話の邪魔をする気はないのか、無言のままの暁彦さん。まるで甘えるように、わたしの肩口に顔を埋めて。

『もしもし~?聞いてる?』
「あ…、ごめん香穂ちゃん、聞いてなかった!」
『そんな堂々と聞いてなかったなんて言われても!…どうしたの?忙しい?』
「う、ううん。忙しくないんだけど…」

どうしようと暁彦さんをちらりと見ると、暁彦さんは何も言わずに腕の力を強める。
首にあたる黒髪がくすぐったくて、肩を竦めた。こんな状態で電話なんて出来ないよ。

「…ごめん、香穂ちゃん。やっぱり、またあとでメールするね」
『やっぱり忙しかった?うん、それじゃ待ってるね』

香穂ちゃんは突然忙しいなんて言い出したわたしを詮索することもなく、気を害することもなく電話を切ってくれた。
通話の切れた携帯を握りしめて、わたしは顔を上げた暁彦さんを見やる。
暁彦さんはわたしの頬に一瞬だけのキスを施すと、ようやく腕を解いた。

「…すまなかったね。無理に電話を切らせて」
「いいえ。…ごめんなさい、うるさかったですか?」
「いや。…君が側にいないと、集中出来なくてね」
「本に、ですか?普通、誰もいない方が集中出来るんじゃ…」
「君に関しては、残念ながら私は普通ではない。…来たまえ。あと少しで読み終えるんだ」

リビングまで腕を引かれながら、わたしはちょっとだけむっと唇を尖らせた。
わたしは何時間も、寂しいのを我慢して静かに、静かにって頑張ってたのに。暁彦さんはたった十分しか寂しさを我慢してない。
わたしが側にいないと集中出来ない、なんて台詞でわたしが喜ぶとでも……喜ぶけど……そりゃ喜んじゃうけど……。
またソファに腰掛けて本を開く暁彦さん。その隣にはわたし。やっぱりひまで、わたしは暁彦さんなんて困っちゃえばいい、なんて意地悪な気持ちで、その膝に寝転がった。
目を丸くしてわたしを見下ろす暁彦さんに、にっこりと笑ってみせる。

「側にいるだけじゃ、わたし、何もすることなくて」
「だから膝枕、かね?私の膝では眠れないだろう」
「眠るだけが膝枕じゃないと思います。…暁彦さんの顔、よく見えますから」
「…随分と甘えるのが上手になったね」

暁彦さんの口角が緩やかに上がる。そのままゆっくりと近づいてくる暁彦さんの顔を、わたしは目を閉じて迎えた。
ぱたん、と。
本があっさり、閉じる音がした。







fin.








急に甘々な吉羅夢を書きたくなった!いつもながら固定ヒロインですみません。でも今回は固定ヒロインじゃなくても読めるかな?
後ろから抱き締められるシチュが大好きな私でした。
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